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哀色夜伽草紙
第8章 突然降りた幕
朝が来て重い身体ながら目を覚ますと、隣に居る壱くんが私に腕を巻き付け抱きしめながら綺麗な寝顔で寝ていた。


静かに上下する胸にそっと手を添えると気持ちが凪いでいく。

ここは安心する場所、指で優しく触れながら思いを巡らす。

壱くんが好き、私にはずっと貴方しかいないけれど……本当にこれが男女の愛なのか確信が持てない。

なぜ私は羽田くんに抱かれてしまったのだろう。

壱くんが怒るのは当たり前だ。警戒心が無さすぎた。

けれど心のどこかで壱くんとの関係をそろそろどうにかしなくてはとも感じているのも事実だ。

でもだからといって羽田くんにいくわけではない。

「好き」

這わせた指を止めてそっと胸に手を当てて小さく呟くと壱くんが無意識にか私を胸に抱き寄せた。

トクントクンと規則的に打つ心臓の音がキモチを緩めていく

神様、どうしてこの人は私の叔父なのですか?他人なら憂いなく手に入ったものを……

自分とよく似た指を見て、血縁者なのだと感じるのは私がかつての世で大罪でも犯したのだと言うのだろうか。

……あまりに残酷だ


壱くんの腕から抜け出すと、置いてある服に着替えて彼に軽めの朝食を用意してから家を出ようとした。

深く眠っていたので声も掛けず、起こさないようにした。

昨夜酷く荒れた抱き方をしていたからきっと疲れてしまったのだろう。

怒らせたのは私だ……

涙流れそうになり堪えながら靴を履いているとふわりと身体が浮き上がった。

「琴莉……」 

壱くんが私を後ろから抱き上げたのだった。

「気を付けて行ってこいよ……」

「うん、ありがとう」

後ろから抱きしめられているから表情は見えないけれど……、声はいつものように柔らかかった。

「行ってきます」

「……行ってらっしゃい」

そのままゆっくり身体が離れたので私は振り返った。

そこにはいつもよりだいぶ窶れた壱くんが居て、暗い表情で笑っていた。

それは笑っているようで泣いているようにも見えた。





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