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哀色夜伽草紙
第8章 突然降りた幕
何となくざわざわしたスッキリしないモヤモヤの気持ちを抱えて最寄り駅につくと、壱くんが改札前に立って居た。

真っ白なTシャツにジーンズでスニーカーというラフ服装で立っているだけなのに、綺麗な顔に透明感がある佇まいは妙に人目を引くから、先ほどからチラチラと女性が壱くんを見ていく。

本人は全くそんなことは気にしていないけど、それは目立つ事を自覚もしているし慣れているからだろう。

「お帰り琴莉」

頭を優しくなでて壱くんが笑った。その手が冷たくてビックリした。
確かに秋口で冷えてきてはいるけれど……

「ただいま。有り難う、もしかして大分待った?」

「いや?教えてもらった時間で調べてたから、さっき来たとこだよ……荷物貸して」

多分嘘だと思った。壱くんの手はいつもはあんなに冷たくない。

だけどそれを追求しても仕方ないからそっか、と笑った。


「平気、重くないもん。それより……ん!」

ボストンバッグを肩にかけて、左手を差し出すと

「んフフ……いいよ?お姫様」

いつものように手をしっかり握って繋いでくれる。

壱くんに触れていると安心する。

特に今はあのもやもやを払拭したくて早く抱き締めてほしい。そんな気分だった。

モヤモヤの奥に身体の疼きがあるのも気付いていたから。

ジッと壱くんを見上げて見つめると

「帰ったらシよ?」

壱くんがペロリと唇を舐めて見せたから、私は素直に頷いた
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