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哀色夜伽草紙
第3章 新しい人

「そんなこと……」

(怖い…)

触れてくるわけではないのに、ジリジリと距離を詰めるように深く見詰められて

その視線から逃れられなくなっていた。


「琴莉さんがそんなに哀しいなら……オレが天国に連れて行ってあげようか?」


急に『琴莉さん』だなんて、甘い声が私を誘う……

「オレなら……そんな哀しい顔させない」


甘い語り口の羽田くんの声に絡めとられて、どんどんと奥に押されるような、迫ってくるようなその感覚に手を突き出して抗おうとした。


「な、やめて!ばか言わないで」

強気な彼の態度にそう小さく叫ぶ。


ナンデソンナニ哀しそうなの?


見透かすような瞳がそう問いかけて私の息を詰まらせる。

やめて、やめて……

ナンデソンナニ震えてるの?

その問いに答える前に身体が硬直して指先が震えた。

恐怖なのか期待なのか、強張ったまま耐えきれずに目を瞑ったその瞬間


PRRR


テーブルに置いていたスマートフォンが壱くんからのメッセージの着信を告げて、重くるしい空気が消えた。

(助けて!)


思わず壱くんに助けを求めるようにスマートフォンを持ち上げて画面を開きながら密かに息を吸い込んだ。

心臓がうるさい程に鼓動していた。

画面をタップする指が震えで上手く動かずに泣きそうになっていると柔らかな声が告げる。

「冗談ですよ……」


恐る恐る見れば、羽田くんはもう怖い雰囲気を脱いでいて、眠そうな垂れ目を優しく細めた、柔和な顔に戻っていた。

一体……何者なの?羽田くん……





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