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哀色夜伽草紙
第3章 新しい人


そんな風に考えていると、もちろん何も気づいていない井坂課長が

「琴莉ー、今日羽田の歓迎で3人で行くぞ?」

クイッとグラスを傾けるジェスチャーをしてきたので頷いた。

「はい、わかりました」

仕事の一貫だし、何だか彼の話を聞いてみたいとも思った。

井坂課長が私の肩に手を置いてから少しトーンを落として言ってきた。

「そうだ、ちゃんと壱に連絡しとけよ?お前が早く帰らないとアイツ、騒ぎ出すから」

「はい……」

しっかり釘を刺された。

と、言うのも前にスマートフォンを鞄に入れたままにして残業。

そしてそのまま課の女性3人で食事していたことがあり、いつもどおり締め切り前で連絡が取れないから伝えていなかっただけなのに

壱くんが珍しく少し早く締切が明けており、半狂乱になってあちこち電話したらしく

……呆れたように井坂課長が壱くんを連れて居酒屋に現れた事があったのだった。

『琴莉と連絡が取れない』

それが何より壱くんが嫌うことなのだと、あの時初めて思い知った……

「ホントに過保護な彼氏なんですね」

ぽそりと羽田くんが呟く

複雑な事情を知らなければそう思うかもしれない、壱くんがただの我が儘な彼氏みたいだ。

でもわざわざ訂正もしない

(私だけが本当の壱くんを知っていればいい)

「そうね」

だから私は曖昧に笑うんだ

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