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わたしの肢体
第2章 秋芳 善(15)
 善が隣を歩く父親を見上げると、父親は煙草の煙を反対側にフーッと吐き出し、それから言った。



「お前がデキたときな。お前のかーちゃん、お前のホントのとーちゃんと俺とで、二股かけてたんだ」



 夜空に星がぽつりぽつりと浮んで、ぼんやりと輝いていた。
 そういえば、百は一度もランニングについてきたことがなかったな、と、善は顔を下に向けながらぼんやりと考えた。
 父親は話を続けた。



「お前のとーちゃんは、そりゃあまぁ一応は、お前とお前のかーちゃんのこと考えてたと思う。けど、俺はお前のホントの父親じゃあないけど、でも、お前のホントのとーちゃんに負けないくらい、お前とお前のかーちゃんを大事にして守ってやれるって、妙な確信があったんだ」



 父親はそこらへんに煙草を投げ捨てると、また新しい煙草を口にくわえ、火を着けた。
 煙草を吸ってる父親のことを、いつも善はかっこいいと思っていた。
 けど、その時は、自分でも分からないけれどなぜか、怖いと思った。


「だから、アイツから、かーちゃんとお前をとった」


 父親の言葉が鼓膜の中で反響していた。 
 ふと、善はある光景を思い出していた。
 小学生の頃、たまたま見てしまった光景だ。


 金曜ロードショーで放映されていたジブリ作品に被りついている自分たち兄弟のうしろ、薄暗いキッチンに両親はいた。
 ふと振り向いたら、父親が母親の服をたくしあげ、乳房を鷲づかみしながら、キスをしていた。
 母親はクスクス笑いつつ、しきりに「あとで」と繰り返していた。
 父親の掌の中にある乳房は真っ白で、乳首がぴんと上を向いていた。

 ・・・あんなことを、他の男ともしていたんだ。お母さんは。

 考えただけで、善は憂鬱になった。
 もしかすると、世の中の母親の多くも、過去に父親以外の人間と性交渉した経験があって当然なのかも知れない。
 けれど、それが自分の母親となると・・・。


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