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わたしの肢体
第2章 秋芳 善(15)
 リビングの方からテレビの音が聞こえる。
 善は母親と目を合わせず、忍び足でキッチンをすり抜け、階段のほうへ向かった。

「あとでごはん、持ってってあげるから」

 母親は善の背中にそう言ったけれど、善は答えなかった。




 善が自室に入ると、さきほど蹴り落とした皿が大学芋と共に床の上に散らばっていた。
 深くため息をつくと、腹の虫がグウと鳴った。
 同タイミングで、下の階から白のぐずる声が響いてきた。



 善は叫びたくなる衝動を抑え、勢いよくベッドの上に飛び乗ると枕を掴んで壁に向かって投げつけた。
 苛立ちが収まらない。
 寝転がり、2,3度右左に転がって、立ち上がる。
 そして床の上で丸まっていた泥だらけのズボンに両脚を通し、ポケットの中に財布とスマホを突っ込んだ上で、ドアを開けた。


 階段を駆け下り、リビングの横を通過。
「どこ行くんだ!」と父親の声が聞こえたけど、無視。
 どうせ白の世話を優先するんだ。
 俺のことを追いかけてくるわけない。 
 分かってるから、玄関のドアを強めに閉めた。
 最も、バタン!と乱暴に閉まるような安っぽいつくりじゃないから、無駄な労力なんだけれど。



 門を出てあてもなく歩き出す足が、しだいに速くなっていく。
 気付いたとき、善は走っていた。



 軽い息が鼓膜に響く。
 身体を動かしているとき、善の心は不思議と穏やかになる。
 白が生まれる前、善は父親と一緒に夜間ランニングするのが日課だった。



 ―――おまえ自身も気付いてると思うけど・・・・。



 だから、とでも言うべきか。
 家の中では出来ない話を父親がランニングの最中に切り出したのは。


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