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わたしの肢体
第2章 秋芳 善(15)
「お前、長男なんだから弟たちの手本になんなきゃいけねぇのに、一番お前がだらしないんじゃねぇか。まったく、なさけねーなぁ」

 父親は貧乏ゆすりのようなしぐさで膝の上で抱いた腰座り前の白を器用にあやしながら、白髪交じりの口髭を空いた手で撫でている。
 気に入らないことがあるときのクセだ。

「いっつも言ってるだろ?スパイクだって玄関にほーり投げてたしよ。お前なぁ、道具を大事にしないヤツはそういう精神が気持ちに現れて、ろくな結果出せねぇぞ」

 善は壁の向こうの玄関に思いを馳せた。
 靴箱に入りきらないスニーカーの山。
 正確には善がサイズアウトしたスニーカーの山だ。
 言と百はそれらを受け継いだだけのことで、あの山は善の抜け殻のようなものだった。
 

 ―――汚い俺のものを使う弟たちは。
 お父さんの本当の子供である、弟たちは・・・。



 善は口に運びかけたから揚げを大皿に戻した。
 それを見た父親の眉間に皺が寄る。



「なにしてんだよきたねーなぁ!」


 汚い。
 躾に厳しい父親の発言が、善の思春期の心に突き刺さる。

 衝動的に善は、さきほど大学いもの皿にしたのと同じように、自分の茶碗を床に叩き付けていた。
 激しい音を立てて茶碗が無垢材のフローリングの上を3つに割れて転がる。粒の立った白米が湯気を立てて破片の上に広がった。



「善!お前どーいうつもりだ!?」



 父親の怒声に善は自分がなんと答えたのか分からなかった。
 ただひとつ分かることは、怒りと勢いに任せて一度は玄関を出たものの、ズボンを穿いていなかったことに門のところでようやく気付き裏の勝手口からそろりそろりと屋敷に舞い戻った、ということだけだった。


「あ、善ちゃん」


 すでに家族が各々の居場所に移動したあとだったらしい薄暗いキッチンを覗くと、エプロンを身に付け流し台の前に立っていた母親が善に気付いて笑顔で振り向いたところだった。



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