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いつ見きとてか 恋しかるらむ
第3章 『 抹茶 水ようかん 』

キーボードに触れたものの……指先は止まったままだった。
やりとりに慣れていないわたしは、どんな言葉を紡いでいけばよいのか悩んでいた。
Sachiさんへ。
まるで、手紙の書き出しのようだけれど、そう打ち込んだ。
『わたしは……。
実際の経験はありません。
でも……。
Mだと思います……。』
ここまで書き終えた時、私の胸は切なく痛んだ。
自分がMだと、こんな風に認めたことは、今まで一度もなかった。
認める必要もなかった。
心の中の奥底にある私の願望……ただそれだけの存在だった。
現実の世界において、Mであることを伝える場もなければ、公にする機会もない。
たまたま……、ネットの世界で……同じような人がいることを知ったから。
妄想や創作ではなくて、本当に調教を受けている人に出会えたから、わたしもMであることを少しばかりの抵抗と大きな期待の中でつたえることができるのだと思う。
ネットの世界は、不思議な距離感だ。
生身の人間とやりとりしていてたしかにその人は存在するのに、その関係性は希薄だ。
そのくせ、こんなふうにわたしは相手の存在を大きく感じ、感情を動かしている。
羨ましく思う……?
Sachiさんのこの一言、わたしには鋭く突き刺さった。
羨ましいという感情が心のどこかにあるから、こうして会ったこともない見たこともないsachiさんのことが気になった。
今まで、ブログ主さんとやりとりしたいと思ったことはなかった。
わたしが記事を読むだけ。
ただ、それだけの関係性だった。
一方通行の関係。
わたしが、sachiさんの書いた内容に惹かれて、コメントを書いたことで、少しだけ一方通行ではなくなった。
「少しずついろんなことが、話せるといいよね」社交辞令かもしれないけれど、わたしはこの言葉に淡い期待を寄せていた。

