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いつ見きとてか 恋しかるらむ
第2章 『 シフォンケーキ 』

会計を済ませ店を出たわたしは、また参道を歩き始めた。
揚げたてのコロッケの香りは、わたしの鼻孔をくすぐる。
通りすぎたものの、誘惑に負けたわたしは、店まで戻りコロッケを一つ買った。
湯気の立ちのぼるコロッケを手渡された。
コロッケを片手に、わたしは歩き始める。
少し冷めたところで、パクリ。
コロッケを頬張った。
じゃがいものホクホク感と甘みが口いっぱいに広がった。
私は、もう一口かぶりついて、また歩き始めた。
参道の脇道に入れば、地元の野菜をピクルスにして売っているお店や、だし巻きたまごのおいしいお店、弁天様をまつっている神社へ続く道……楽しいことがたくさん待っているような気がする。
いつもは路地裏が手招きして、わたしを呼ぶのだけれど、今日はそれが見えなかった。
わたしは、そのままずんずんと参道を進んでいった。
参道の終わり。
右に曲がって、歩いていけば、大きい鳥居が見える。
鳥居から続く長い長い砂利道。
その向こうに、舞殿が見える。
舞殿の先には、長い石段があり、上りきったところに本宮がある。
あまりに遠くから見ているから、舞殿の少し上に本宮があるように見え、石段が見えない。
でも、舞殿の美しさも本宮の美しさも充分伝わってきた。
鳥居をくぐって、舞殿の横を通り、大石段を一歩一歩……。
今日は、のぼる気にはなれなかった。
どこかに行きたかっただけ。
ここが、目的地ではなかった。
なんの目的を持たずにただ歩きたかっただけだった。
わたしは、踵を返した。
本宮に行く人たちに逆らうように、歩いていく。
さあ、お目当てのパンを買って、家へ帰ろう。
わたしは、少し大きく手を振って駅に戻っていった。

