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いつ見きとてか 恋しかるらむ
第2章 『 シフォンケーキ 』

それほど長くはない時間。
車窓から見える海に心を奪われていた。
電車が、駅のホームに停車している間、海から目が離せなかった。
電車は、ゆっくりと動き出した。
しばらくの間、海は、後ろへ後ろへと流れていった。
まだ、見ていたい。
もっと。
もっと……見ていたい。
そう思っていても、線路は樹木の壁と住宅の間に吸い込まれていく。
小さくため息をついた。
あっという間に終わってしまった。
おいしいお菓子をもう一口食べたくなる瞬間、別れ際にあと少し話したくなる瞬間。
自分にとって、愛しい瞬間というものはどうしてこうもあっという間に過ぎていくのだろう。
ひとときだからこそ、その印象が鮮明になり、心惹かれるのだろうか。
電車は、駅に停まった。
この駅は、とてもおいしい朝食が食べられるお店があるせいか、降りる人と乗り込む人がそれなりにいた。
小さな男の子は、運転手の後ろの席に座って動き出すのを今か今かと待っていた。
電車は、ガタンと大きく揺れて、ゆっくりと進みだす。
電車は、左右に大きく揺れながら進んでいく。
もう海は見えない。
私が降りる駅は3つ先にある。
外の景色をぼんやりと眺めていたけれど、目を閉じた。
さっきみた海が甦る。
心に穏やかな風が吹いた。
一つ、いいことがあった。
次も、なにかよいことがあるといいな。
私は、行き慣れた参道を思い浮かべながら、そんなことを思った。

