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いつ見きとてか 恋しかるらむ
第2章 『 シフォンケーキ 』

結局、この日、Sachiさんから返信はなかった。
というより、なくて当たり前なのだ……。
私は、夫の帰宅を待たずに先に休んだ。
いつも通りの朝。
夫は、トーストにかじりつきながら、スマホに視線を落とした。
トーストをコーヒーで流し込み、
「今日は、早く帰れるかも。」
と、つぶやいた。
「俺の仕事、佐々木がやってくれるみたい。
課長からメールが来てるし、もし、早かったら、久々に外で食事にでも行くか。」
「やったー!」
わたしは、軽くガッツポーズした。
「食べたいもの、考えといて。」
夫は、そう言いながら、玄関に向かっていた。
わたしは、夫の後を行く。
「いってらっしゃい。」
「いってきます。」
扉がバタンと閉まった。
はあ。
小さくため息がこぼれた。
きっと。
急な仕事が入って、外食の予定はダメになるんだろうなあ……。
平日の約束は、守られたためしがない。
……いつもそうだ。
喜んだのは、嘘じゃない。
でも、いつもいつも……ダメになると、
期待しちゃいけない……。
そんな気持ちが、心の片隅に芽生えてしまう。
部屋に戻る前に、洗濯機に洗い物を入れた。
スイッチを押せば、いつもと変わりのない音がする。
後は、食べ終わった食器を洗うだけ。
あまりある時間。
なにか習い事をしてみる?
働いてみる?
ボランティアは?
なにかしてみようと、考えたこともあった。
でも、始める気にはなれなかった。

