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いつ見きとてか 恋しかるらむ
第1章 『 フォンダン ショコラ 』

二階にあがる階段を上ると、
そこには、ソファーの席が二席と
通りに面したガラス張りのカウンターが
目に入る。
「いらっしゃいませ。」
背の高いウェイターがやってきた。
カウンターに案内され、
座ると大通りが近くなる。
大通りの向こう側には有名な大学があった。
大通りを行き交うクルマは、
場所柄なのか、高級な外国車が多かった。
わたしは、食べたいものは決まっていたけれど、
メニューを開いた。
ドリンクは、今日はダージリンにしよう…。
わたしは、ウェイターに視線を投げた。
軽くうなづき、ウェイターが近づく。
「えっと……フォンダンショコラとダージリン、お願い します。」
「ミルクとレモン、どちらになさいますか。」
「ストレートでお願いします。」
わたしはそう言いながら、メニューを閉じ、
ウェイターに手渡した。
頬杖をつき、
ぼんやりと、
流れていくクルマ、
キャンパスへ向かう学生を見ていた。
「フォンダンショコラ」
ここのチョコレートは甘すぎず、濃厚。
どうしても、フォンダンショコラが食べたい時は
ちょっと面倒だけれど、この店まで来たくなる。
わたしが座っている席を一つ空けて、
大学生らしい女性二人が座っていた。
楽しそうな笑い声が聞こえる。
チラリと後ろを見やると
一つのソファー席は空いていた。
もう一つのソファー席には、
向かい合ってカップルが座っていた。
こちらは、にこやかな笑顔を交わしていた。
一人で過ごす寂しさには慣れているつもり。
でも、地元にいれば、
こんな気持ちとは無縁だっただろう。
学生の頃の友達、
会社での友達、
習いごとで知り合った友達……、
きっとわたしも、こんなふうに誰かと一緒に過ごしていただろう。
少し、ため息がこぼれた。
夫に転勤があるのはわかっていた。
転勤があるから、じゃあ結婚しない…というのは
おかしいと思った。
だけど。
夫には、会社がある。
誰かと接点がある。
わたしは……孤独だ。
孤独と闘うのではなく、
ちょっと苦手な友達としてつきあいたい。
でも、なかなかうまくいかないものだ。

