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O……tout……o…
第1章 おとうと
 38

「こんなに遅くなっちゃったし、お礼はまた今度でいいかな」
「え…でも、この後を楽しみにしてたんですよぉ」

「あ、で、でも時間が……」
 部長は、わたしをジッと見つめてくる。

「時間なんて…」
「う、うん、じ、じゃあ…
 『オーキッドBAR』で…いいかな……」
 わたしは頷く。

『オーキッドBAR』
 それは、某ホテルのメンバーシップBARの名称……
 つまり、それはホテルに行くということ。
 
「以前に専務に紹介してもらってさ…
 いちおうメンバーなんだよ…」
 
 そう、荒川部長は、専務のお気に入りの大学直属の後輩であり…
 社内の巷の噂では、ナンバーワンの出世頭。

『多分、来春の人事では本部長に…』
 との噂が、まこと密かに社内では流れていた。

「だけどなかなか敷居が高くてさぁ、あまり通った事がないんだよ…」
 と、ホテルのバーに誘った言い訳を言ってくる。

 だけど、今のわたしには、この誘いは嬉しい…
 だって、あのタカシのせいで蘇ってしまったトラウマと、ぐちゃぐちゃの別れによる傷心の想いが、この大人であり憧れの部長からの誘いであるから。

 できることなら…
 できることなら、この傷を…
 舐めて、癒して欲しいから。

「いらっしゃいませ…」
 そしてわたし達はバーを訪れる。

 だが…

「荒川さま、せっかくのご来店なのですが、間もなくラストオーダーになってしまいますが…」
 と、バーテンダーは静かに告げてきた。

 そう、時刻は間もなく午前零時半に近い…
 ホテルのバーは午前一時に閉店だそうだ。

「あ、うん、仕方ないさ、とりあえず一杯だけ貰おうかな」
 と、部長はバーテンダーとわたしの顔を交互に見て、そう言ってきた。

「……」
 わたしは黙って、コクンと頷く。

「そうだな、山崎12年をロックで貰おうかな…
 櫻井くんは?」
「え、あ、わたしは…
 じ、じゃぁ、ドライマティーニを…」
 
 すると…
「おや、櫻井くんはなかなかイケるんだ?」
 
「い、いえ……」
 わたしは首を振る。

「え?」
 部長は少し驚き、顔を見てきた。

「こ、今夜は……」
 わたしはドキドキと一気に胸を高鳴らせ…

「あ……ぶ、部長と…一緒だから………」
 
 そう…
 部長と一緒だから…
 酔ってもいいんだ…

 いや…
 今夜は酔いたいんだ…


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