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シロップ
第1章 シロップ
 5 ブルーハワイ味のわたしは、夜の孤独に静かに淫靡に溶ける、秘密のわたし…

 毎週水曜日は『ノー残業デー』
 わたしは定時に退社して、数少ない友人の美千代と待ち合わせをし、軽くショッピングをして、夕食を食べ…
 その後にとりとめのない女同士の会話を楽しむ。

 会社、仕事の愚痴から始まり…
 とりとめない女同士の話しを交わしていき…

 そして最後に必ず盛り上がるのが…
 恋バナである。

 美千代は早婚の母親の影響からか、結婚願望が強い…
 
 だがわたしは対照的で…
 将来を意識している『甘い練乳』の彼はいるのだが、リアルな将来の結婚像はまだイメージできず…
 その甘さをうまく中和する為に、いや、逆に、より心の刺激を求めるかの様に、直接の上司である『課長』と不倫の逢瀬をしている…
 ううん…
 本当は…心から…課長を愛していた。

 だが、彼、課長との未来という現実を思い浮かべると…
 リスクしか浮かばない。

 リスク…
 それは略奪愛の対価のリアル。

 それらのリスクの現実が…
 わたしの胸の奥深くを冷たい波でかき乱し、心の熱を冷まし、醒まし、ただ、かろうじて抑えていた。

 その心の色はまるで…
 ブルーハワイのシロップが、氷の上を静かに溶けて流れ落ちていくような…
 それは青くて透き通った、孤独で冷たい…
 青くて、蒼い、藍い色。

 そしてわたしは、いつもの美千代が楽しげに語る「理想の結婚像」を軽く聞き流しながら、グラスの中の氷をストローでゆっくりと回していくと…
 カラン…
 と、鳴った小さな音が心の奥まで響いてきた。

「ねぇ彩美、あんたは結婚とか考えないの?」

「うーん…どうだろ、今はあんまり考えたくないかも」

「えぇでもさぁ、彼ともう長いんでしょう?
 二年半だっけ?」

「うん…まぁそうだけど」
 笑ってごまかしながら、心の中では別の秘密のわたしが…
 そっと微笑んでいた。  

 イチゴ味のわたしが焦がれる恋… 
 レモン味のわたしが嫉妬に蠢く夜… 

 そして今夜…
 ブルーハワイ味のわたしは…

 孤独に酔って…
 寂しさに心震わせ…

 静かに、淫靡に……融けていく。



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