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シロップ
第1章 シロップ
 4 レモン味のわたしは嫉妬に口をすぼめ…

 月曜日の午後三時…
 『ピコン』と、スマホのラインの着信音が鳴った。

『七時半』
 このラインはたった三文字。
 それ以外に余計な文字はいらない...
 時間さえわかればよいのだから。

 その時間にいつものカフェで待っていれば…
 後ろのデスクに座っている『あの人』が、優しく、魅惑の笑顔で来てくれるのから。
 

「ごめん、少し待たせちゃったね…」
「ううん、課長……大丈夫です、わたしもさっき来たところですから…」

「あ、そうか、ほらさっき部長に呼ばれちゃってさ」
 その様子を終業間近の自分のデスク越しから見ていたから、少し遅れると予測できていた。

「さぁ、今夜は何が食べたいのかな?」
「はい、ええとぉ…」
 わたしと彼『課長』は、世間の巷に溢れている『上司と部下』という不倫の関係。

「今夜のレモン色のワンピースはかわいいなぁ…
 それにこの柑橘系の微かなフレグランスが堪らない」
 そして食事が終わり、いつものホテルの部屋に入るなり…
「彩美、かわいいよ…」
 甘く囁き、抱き寄せ、キスしてくる。

「ぁ…か、課長…」
 その甘いキスにわたしの心は溶けて…
 ううん、蕩けてしまう。

 カラダの奥深くが強く疼き…
 心もカラダも彼に抱かれ、愛され、融けていく…
 そしてこの快感によって、甘い練乳ミルクの物足りなさが消え失せるのだ。

 いや、この強い快感の波に飲まれるたび、わたしの心はザワザワと静かに泡立っていく…

 感じれば感じるほどに…
 愛されれば、愛されるほどに…
 それはまるでレモン味のように…
 彼への嫉妬心に、心の奥が酸っぱく痺れてくる。

 この土日は奥様とお子さんたちと出かけたの?…
 夜には奥様を抱いたの、いや、愛したの?…

 だからわたしは…
 愛してくれた後に…
 彼がシャワーを浴びている隙に…
 彼の痕跡の量を無意識に調べてしまうのだ。

 そしてその激しく強い嫉妬心から…
 前夜に奥様を愛させない様にと…

 ワザと逢瀬を…
 月曜日の夜にと決めていた。

 それはまるで…
 レモン味の酸っぱさに口をすぼめるみたいに、嫉妬しているわたしの心そのもの。

 だが、それが…
 その酸っぱさが…

 イチゴミルクの甘さに溶けそうなわたしの心を中和しているのだと信じている…



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