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シロップ
第1章 シロップ
 7 どれが本当の…

 課長に触れられるたびに…
 抱かれ、愛されるたびに…
 
 心の中の酸味と快楽の境界が曖昧になって、
 まるでシロップが熱にとけて滴り落ちるように…
 わたしの中の「昼」と「夜」が混ざっていく。

 そして…ブルーハワイ味のわたしが、遠くから…
 少し冷めた目で…
 少し寂しげに…
 夜の青い、心の淡い灯を見下ろし、いや、見下しながら、呟いてくる。

「結局、アナタのどの色も同じ甘さなのにね…」と。
 
 ひとつのグラスの中で、イチゴも、レモンも、ブルーハワイも、溶けて、融けて、混ざって、やがて透明な水になる…
 それは、誰にも知られない「わたし」という秘密の味。

 誰かのために作られた色じゃなくて…
 自分のために選びたい、無色のわたし。

 でも…
 無色なのは、すごく怖く感じてしまう。

 色を失えば、まるで、存在も溶けてしまうみたいで… 
 そして誰にも気づかれずに、甘さだけを残して、幻のように消えていくみたいだから。

 だからわたしは、また今日も色をまとう。

 昼にはイチゴを…

 夜にはレモンを…

 孤独な夜にはブルーを。

 それぞれの香りをほんの少しずつ纏い、本当は同じなのに…
 別人のように、装っていくんだ。

 そしてまた、同じように溶けて、融けて、彷徨って、さ迷う…


「ねぇ、彩美」
 鏡の中で、もう一人のわたしが呼ぶ。

 ピンクのルージュを引いた唇が囁く… 

「どれが本当のわたしだと思う?」

 
 ただ、鏡の中の三人のわたしが…

 同じ笑みを浮かべていた…

 イチゴ色の恋…

 レモン色の嫉妬…

 ブルーの孤独…

 すべてが溶け合い、融けて…
 ひとつの『わたし』というシロップになっていく。

 そして今夜も…

 誰かの舌の上で…

 淡く、とろけて、消えていく…


              Fin~♪


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