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イケナイアソビ。
第5章 生け贄は蜜に溺れる
唇を引き結び、やがて姿を見せるだろう、付喪神に目を向けた。
「すまない。日に日にやせ細っておるのは知っていた。私がお主を苦しめたからであろう」
付喪神はそう言うと、静かに姿を現した。
腰の下あたりまである髪は白銀だ。
紺の狩り衣を纏う身体は細いが、なかなかの美丈夫で長い睫毛に縁取られた新緑の目が印象的な、美しい双眸をしていた。
「あな、たは……?」
彼は本当に付喪神だろうか。
菊生は目を疑った。
だってどう見ても普通の人間――いや、美しい男の姿をしている。
あの醜い触手を幾本も持つ者と同じものだとは信じ難い。
「お主はもう知っておろう。私は付喪神。ここではそう呼ばれておる」
「えっ? でも触手が……」
「あれは、この村の者の邪気のせいだ。あれを食らいすぎて惨たらしい身体になってしもうた」
「じゃあ、今はどうしてその姿に?」
「お前の精液に触れたからであろう。私はお前の清らかさに救われた……」
ふいに付喪神に手を伸ばされ、菊生は床に腰を引きずり、反射的に逃げた。
「あ、嫌……」
「嫌、か」
付喪神は呟き、苦笑を漏らした。
「もう良い。お前を解放してやろう。どこぞ好きなところへ行け」
そう言うと、付喪神はあぐらを掻き、床に座した。
「だけどそれじゃあ、村のみんなが!!」
「もう祟りはせん。気が変わらぬうちに早う行け!!」
顎に手の甲で支え、彼が言う。
このままここに居ると自分はおかしくなってしまう。
快楽ばかりを求めるただの淫らな鬼として棲むことになるだろう。
――厭だ。
(自由になりたい!!)
菊生は急ぎ、その場を走った。
必死になって社を抜ける。
砂利道を駆け、付喪神から逃れようとひたすら地を蹴る。
しかし、なぜ今になって彼は自分を手放そうと思ったのだろう。
何かがおかしい。
そう思ったのは、付喪神の呼吸が少し乱れていた気がしたからだ。
そういえば、うっすらと額に汗を浮かべてはいなかっただろうか。
それに、慰めてくれたあの手は誰のものだっただろう――。
(まさか!)
そこで気がついたのは、泣いている自分を慰めてくれたのは付喪神だったのかもしれないということだ。

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