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家は檻。〜実父の異常な愛〜
第7章 荊棘の視線
中休みが終わり、こよみは再び自分の席へと戻った。
まるで何もなかったかのように、教室は日常の風景を取り戻していた。
男子たちはいつものように騒ぎ、女子たちはグループで笑い合っている。
さっきの黒板も、すっかり綺麗に消されていた。

けれど、こよみの中では、何かが確実に変わってしまっていた。

給食の時間になり、列に並ぶと、給食当番の女子がこよみの顔を覗き込んで聞いてきた。
「月島さん、チリコンカン、少なめにする?」

「……うん、お願い」
小さく答えながら、こよみは自分の胸元をそっと押さえた。

男子たちの視線が、自分の胸に集まっているような気がしてならない。
本当に見られているのか、ただの思い込みなのかはわからなかった。
けれど一度そう感じてしまったら、もう普通に振る舞うことすら難しかった。

給食中も、誰かの視線を感じるたびに、スプーンを持つ手が止まってしまう。
耳の奥で、あの黒板の文字が何度も何度も繰り返される。

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自分が“見られている存在”になってしまった。
それは、あの家の中だけにあった視線とは違う。
もっとざらざらとしていて、もっと軽くて、でも確かに自分の内側を傷つけてくる。

掃除の時間になっても、そのざわつきは消えなかった。

ぞうきんを手にした女子たちが、机を動かしながら話している。
「ねえ、正直さー……月島さんって胸大きくて、ちょっと羨ましいよね」
「うん、あたしも思ってたー。スタイルよくていいなー」

こよみは、笑って返すこともできず、ただ曖昧にうなずいた。

──そうか、視線は男子だけじゃない。

その瞬間、自分が“身体”として見られている感覚が、また一段深くなった。

教室の隅では、岡田と山下が雑巾とホウキを使って、即席の野球を始めていた。
「山下、フルスイング禁止な!」
「アウトォォ!!」

「ちょっと!またふざけてる!いい加減にしてよ!」
馬場の怒鳴り声が響き、教室にぴしりと緊張が走った。

それでも、ふざける男子。叱る女子。
なにもかもが、いつも通りに戻っていた。

こよみだけが、取り残されたまま。
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