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家は檻。〜実父の異常な愛〜
第7章 荊棘の視線
午後二時を少し過ぎた頃、月島呉服店の引き戸が静かに開いた。

「お?……誰もいねぇのか?」

のれんを押し分けながら入ってきたのは、高橋だった。
渋めの紺色の着流しに、白足袋。昼の仕入れを終えて孝幸と別れたのか、一人でふらりと戻ってきた様子だった。

帳場には人の気配がなかった。
座布団の上に置かれた帳簿が、微かに風でめくれている。
普段そこに陣取っているはずの佐藤がいないことに、ほんの少し眉を寄せる。

……まあ、トイレか、物置か

そう思いながらも、高橋は声をかけず、白足袋のまま店の奥へと向かった。
勝手口に回るつもりで、一旦階段のそばを通り過ぎようとした──が、

ふと、気づく。

階段の、上の方から何かの気配がした。
軽い衣擦れ、ほんのわずかな床の軋み。音というより“空気の揺れ”だった。

高橋は立ち止まり、見上げた。

静かな店内。だが、その二階の廊下の突き当たりにある部屋──
そう、あの“こよみの部屋”の前に、和装姿の男が立っていた。

佐藤だった。

少し屈んだ姿勢で、扉に向かって何かしている。
細かな動作までは見えなかったが、あの気配は確かに“侵入”のそれだった。

高橋は階段を上がらなかった。
声もかけず、ただその場に立ち尽くす。
半分、見てしまった。
けれど──見なかったことにするには、ちょうどいい距離だった。

しばらくそのまま立ち尽くした後、彼は静かに向きを変えた。
踵を返し、下駄箱の脇を通って裏手の廊下へ抜けていく。
足音を抑えたその動きは、あくまで「最初から勝手口に用事があっただけ」という風だった。

勝手口の石段に腰を下ろし、煙草を取り出す。
ライターの音と、乾いた炎。

「……まあ、俺には関係ないわな」

ひとりごとのように呟いて、煙を吐く。
吐き出した煙の向こうで、彼の目は細められていた。
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