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家は檻。〜実父の異常な愛〜
第7章 荊棘の視線
体育の授業を終えて、更衣室を出たこよみは、ほてった頬に手をあてながら廊下を歩いていた。
佳乃と並んで教室へ戻る途中、背後からは女子たちのおしゃべりが続いている。

「明日の体育もリレー練習かな?」
「絶対バトンミスる自信あるし……」

そんな声に笑いが混ざる。
新学期も半月が過ぎて、クラスに少しずつ“いつもの空気”が戻りはじめていた。

けれど、その扉の向こうに待っていたのは、思いがけない光景だった。

「……なにやってんの?」
先に教室に入った馬場の声が、ぴしゃりと空気を裂いた。

その声にこよみと佳乃も足を止める。

黒板の前に、男子たちがたむろしていた。
岡田がチョークを持ち、山下が爆笑している。

そして、黒板にはこう書かれていた。

《おっぱいがでかい女子ランキング》

1位、2位──誰もが認める“女子一軍”の2人の名前。
そして、3位に書かれていたのは「月島」の文字だった。

ざわっ──と、空気が乱れる。

「は?何これ、ほんとキモい」
「最低……」

女子たちの間に、不快のざわめきが広がる。
それでも岡田と山下は悪びれもせず、笑っていた。

「え、なにが~?」
「ウケるだろ?事実だし~」

「ほんと男子って、そういうとこ無理!」
馬場が前に出て、岡田の腕を掴もうとする。
けれど岡田はふざけたように逃げ、山下と一緒に机の間を駆け抜けていく。

「ちょ、逃げんなって!」
「ババア怒った~!」

紙くずを丸めたものが、誰かの頭をかすめた。

──笑っているのは男子だけだった。

女子たちは皆、嫌悪と警戒をたたえたまなざしでその様子を見ている。

「確かに月島って、ちっちゃいのに……」
男子の誰かが、こっそりそう言った。
たしかに、という言葉が、こよみの胸に突き刺さった。

まるで値踏みされるような視線を感じる。
身体を、胸を、見られている。
それは、あの家で受けるものとはまったく違う“他者の視線”だった。

こよみは、声を出せなかった。
俯いたまま、動けなかった。
目線をどこに向けていいかもわからなかった。

笑い声が、刺すように響いている。
教室の空気が、ざらざらとこよみの肌をひっかいてくる。
誰もが何かを感じているのに、止める術を持たないまま時間だけが流れていく。

そのとき、教室の廊下の奥から、誰かの足音が近づいてきていた。
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