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家は檻。〜実父の異常な愛〜
第5章 初花

昼過ぎの店内は、客足もまばらで静まり返っていた。
帳場の奥から続く階段を、重たげな足音がひとつ、軋ませる。
月島呉服店の従業員のひとりである佐藤周作は、二階の廊下に立ち止まる。
その先にあるのは、白く塗られた木製の扉。
小さな花の飾りがぶら下がり、いかにも“子どもの部屋”といった雰囲気を醸している。
彼は、まるでそこが自室であるかのような手つきで、ノブに手をかけた。
音もなく開いた扉の向こうには、整えられた空気が漂っていた。
窓辺にはピンクのカーテンが揺れ、机の上には刺繍糸が並んでいる。
枕元に置かれたぬいぐるみがこちらを見ているように感じられ、
佐藤はひとつ、喉の奥で笑った。
クローゼットを開ける手は手慣れたものだった。
衣服の隙間に指を滑り込ませながら、中の柔らかな布地を撫でる。
やがて引き出しを引くと、畳まれた小さな下着が並んでいた。
「……いい子にしてるねぇ、ほんと」
彼は、ひとつをそっと指先に取り上げる。
ベッドに腰を下ろすと、乾いた布が沈み込んだ。
手にした布を、ゆっくりと膝の上で伸ばしながら、
彼の目の奥には、どこか遠くを見るような光が灯っていた。
「いつも頑張ってるんだよねぇ……社長の相手……えらい、えらいよぉ……」
声が、わずかに震えていた。
「でも……でもね、うん……俺なら、優しくできるんだよ?
痛くなんか、しないし……ちゃんと、優しくしてあげる……」
呟きは、しだいに湿った息に変わっていく。
喉の奥から絞り出されるような声で、彼は続けた。
「……俺好みにっ、なってきたよね……もうちょっと……もう、ちょっとだけ……」
「っ……そしたら……ちゃんと、助けてあげるから……ね……」
最後の言葉は上ずり、まるで自分に言い聞かせるようだった。
その声の余韻が消えぬまま、彼は深く息を吐く。
しばらくその場に留まったのち、布をそっと引き出しへ戻し、
周囲を見回すと、ゴミ箱に目を止めた。
からっぽのその中へ、ポケットから取り出した白い紙くずを落とす。
くしゃりという音が、室内にひときわ大きく響いた。
何事もなかったかのように立ち上がり、
振り返らずに扉を閉めると、廊下には再び沈黙が戻った。
その静寂だけが、彼の不在を物語っていた。
帳場の奥から続く階段を、重たげな足音がひとつ、軋ませる。
月島呉服店の従業員のひとりである佐藤周作は、二階の廊下に立ち止まる。
その先にあるのは、白く塗られた木製の扉。
小さな花の飾りがぶら下がり、いかにも“子どもの部屋”といった雰囲気を醸している。
彼は、まるでそこが自室であるかのような手つきで、ノブに手をかけた。
音もなく開いた扉の向こうには、整えられた空気が漂っていた。
窓辺にはピンクのカーテンが揺れ、机の上には刺繍糸が並んでいる。
枕元に置かれたぬいぐるみがこちらを見ているように感じられ、
佐藤はひとつ、喉の奥で笑った。
クローゼットを開ける手は手慣れたものだった。
衣服の隙間に指を滑り込ませながら、中の柔らかな布地を撫でる。
やがて引き出しを引くと、畳まれた小さな下着が並んでいた。
「……いい子にしてるねぇ、ほんと」
彼は、ひとつをそっと指先に取り上げる。
ベッドに腰を下ろすと、乾いた布が沈み込んだ。
手にした布を、ゆっくりと膝の上で伸ばしながら、
彼の目の奥には、どこか遠くを見るような光が灯っていた。
「いつも頑張ってるんだよねぇ……社長の相手……えらい、えらいよぉ……」
声が、わずかに震えていた。
「でも……でもね、うん……俺なら、優しくできるんだよ?
痛くなんか、しないし……ちゃんと、優しくしてあげる……」
呟きは、しだいに湿った息に変わっていく。
喉の奥から絞り出されるような声で、彼は続けた。
「……俺好みにっ、なってきたよね……もうちょっと……もう、ちょっとだけ……」
「っ……そしたら……ちゃんと、助けてあげるから……ね……」
最後の言葉は上ずり、まるで自分に言い聞かせるようだった。
その声の余韻が消えぬまま、彼は深く息を吐く。
しばらくその場に留まったのち、布をそっと引き出しへ戻し、
周囲を見回すと、ゴミ箱に目を止めた。
からっぽのその中へ、ポケットから取り出した白い紙くずを落とす。
くしゃりという音が、室内にひときわ大きく響いた。
何事もなかったかのように立ち上がり、
振り返らずに扉を閉めると、廊下には再び沈黙が戻った。
その静寂だけが、彼の不在を物語っていた。

