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わたしの妄想日誌
第15章 里帰り
 ホームに立つと反対側のホームに上司が立っています。お互い知らぬふりをして。今日は上司が乗る電車が先に着きました。わたしの方に背を向けて椅子に座る姿が見えました。ベルが鳴って上司をのせた電車が駅を出て行きました。

 わたしはバッグから手帳を取り出すと、今日の日付けのところに小さく印をつけました。

 『なんだなんだ、若者があんなかわいい嫁さんもらっておいて月イチかよ。情けないな』

 いつだったか、お昼休みに上司が職場の若手社員を冷やかしていました。

 『じゃあ、課長は週イチ、いや週二は励んでおられるのでしょうね』

 若手社員が混ぜ返します。

 『ん? 俺か? 俺はまあ、せいぜい年イチだな』

 部下たちが一斉に笑いました。わたしもお愛想程度に口角を上げました。苦笑いのような貌をして口元を歪めている上司と目が合いました。

 その日の夜、わたしと向かい合って繋がりながら上司は言いました。

 『今日は『年イチ』で話にオチをつけたが、本当はもっと頑張っているんだぜ? たまにはシないとワイフに怪しまれるからな。まあ、キミとの回数には全く及ばんがね。何せキミは…』

 上司はわたしのからだを褒める言葉を続けていましたが、わたしは目を閉じて感覚だけに意識を集めたのでした。

 上司をのせた電車がカーブを曲がって暗闇に消えていくのと入れ替わるように、わたしが乗る電車がやって来ました。いつもより空いている電車に乗り込んで椅子に座りました。改めて手帳を開きます。今年最後の上司との密会を終えて、手帳に付けた小さな印を数えてみました。二十六個ありました。ふと、一年は五十二週だということを思い出しました。

 二日後、わたしは実家に帰りました。出がけに駅の売店で菓子折りを買いました。帰省するときにいつも買っています。三時間ほどかかって着いた小さな駅で降り、小さなバスに揺られて家に着くと母が迎えてくれました。わたしは菓子折りを母に渡しました。上司に貰った封筒はそのままアパートに置いてきました。

 「いつもありがとうね。早速みんなでいただきましょうかね」
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