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わたしの妄想日誌
第13章 承認欲求
 駅までの道が、まるで別の町のように思えました。□□駅で電車を降り、改札を抜けると、知っているはずの□□駅とは違う遠い場所に来たような気分になりました。時計を見ると、まだ約束の十分前でした。

 (先に着いてしまった…)

 改札の脇で立ち止まり、落ち着かない気持ちのまま周囲を見回したそのとき…男性がわたしの姿に気づき、ゆっくりと歩み寄ってきました。

 「奥さん…早かったですね。来てくださって…本当にうれしいです」

 わたしは小さくうつむきました。

 「では、行きましょうか。少し歩いたところに、落ち着ける場所があります。…ゆっくりできます」

 “ゆっくりできます”というその言葉を飲み込むように、わたしは無言で頷きました。駅から商店街を抜けると△△さんが路地に入っていきました。わたしも黙ってついていきました。△△さんが、足を止めました。

 「こちらで…よろしいですか?」

 古びた木造の建物。入口に手書き風の文字で「休憩 一時間 ○○○円」とだけ書かれた紙が貼られています。俗に云う連れ込み旅館でした。わたしは黙って頷きました。部屋に通されると、畳の上にはすでに布団が一組敷かれていました。

 「私も分別はあるつもりです。奥さんにはご迷惑をおかけするようなことはありません」
 「はい…美容室のママさんが『後腐れがない』って」
 「そうです。そういうことです」

 △△さんが笑いました。そしてわたしを抱きしめてくれました。

 「奥さん、素敵です…」
 「そんなことありません…」
 「ご主人はお忙し過ぎて、あなたのすばらしさを見失っているだけですよ。こうして奥さんと一緒になれるなんて…私は幸せです。いつまでもこうしていたい…。つながっていたい…」

 △△さんがそっと髪を指先で整えてくれます。

 「わたしもです…幸せ…」
 「ああ…でも、奥さんがよすぎる…じっとしていることが難しくなってきました。…そろそろ…よろしいですか…」

 わたしは枕元のお盆に置かれていた小さな包みを△△さんに渡しました。△△さんが体を離すと包みの封を切って装着しました。

 「どうぞ…いらしてください…」

 わたしは自然に身体を開いてふたたび△△さんを迎えました。この人はわたしの中で果てようとしてくれている…。
 
 日も傾く頃、わたしは旅館を出ました。承認欲求を存分に満たされて。
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