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わたしの妄想日誌
第13章 承認欲求
 久しく感じることのなかった“女性として気遣われる感覚”が胸に広がっていきました。コーヒーが置かれると男性はゆっくりと話題を投げかけてくれました。家族の話でも、仕事の話でもない、軽い世間話。それでも言葉の端々に気遣いが感じられました。わたしの心は徐々に解け、自然に笑顔が出ていました。

 「笑顔が素敵ですね、奥さん」
 「いえ、そんな…」

 (社交辞令だと自分に言い聞かせながらも、こんな感覚…自分をちゃんと見てもらえているみたい…)

 時間はあっという間に過ぎ、別れ際に男性は軽く頭を下げました。

 「今日は話せてよかったです。無理にとは言いませんが、またこうしてお会いできたらうれしいです」
 「わたしなんかでよろしいんですか?」
 「もちろんじゃありませんか。奥さんさえよろしければ明日にでもすぐという気持ちですよ」

 男性は笑っていました。冗談なのか本気なのかわかりませんでしたが、わたしは求められることの悦びを感じていました。

 「面と向かっては断りにくいでしょうから、美容室のママさんにご返事していただければ結構ですよ」
 「お断りするなんて、そんな…」

 思わずそう言ってしまいました。

 「ありがとうございます。期待しないでお待ちしていますね」
 「今日はありがとうございました」

 わたしは先に店を後にしました。そして公衆電話からママさんに電話を入れました。

 「いい感じだったのね。よかったわ。あとは貴女次第だから、△△さんの連絡先を伝えるわね。一人暮らしだからいつ電話してもいいはずよ。メモできる?」

 わたしは番号を手帳に書き留めました。団地へ戻ると夕暮れの光が差し込んでいました。階段を上がり、玄関の鍵を閉めました。わたしは手帳をテーブルの上に置きました。炊事をする気にもなれず、コートを脱ぎかけた手も止まったままでした。

 夫はまだ帰宅しない時間です。隣の部屋では子どもがテレビを観ていました。受話器を取る手が小さく震えました。思い切ってダイヤルを回しました。

 呼び出し音が三度ほど鳴ったところで、静かな声が受話器の向こうに現れました。

 「はい…△△です」

 声を聴いた瞬間、胸が高鳴りました。

 「あ、あの…先程、お会いした…〇〇です」
 「ああ…お電話いただけるとは思っていませんでした。うれしいです」
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