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わたしの妄想日誌
第13章 承認欲求
 わたしが持て余しているのは、時間ももちろんそうですけど、そのほかには…。ママさんは鏡の中で含みのある微笑を浮かべました。

 「歳は奥さんよりはかなり上だけど、後腐れがないほうが気楽でいいでしょ? 明日にでも連絡できると思うわ」

 あまり察しがいいわたしではありませんが、『後腐れ』などという言葉から、ママさんの話が意味することはわかりました。でも、不思議と頬が火照るようなことはありませんでした。

 「電話番号を教えてくださる?」

 わたしが番号を言うと、ママさんはメモ用紙に書き留めました。

 「そうと決まったら腕が鳴るわね。いい感じに仕上げてあげるわ」

 ママさんはおしゃべりもしないでわたしの髪を整えていきました。

 「さ、できました。お疲れ様。あ、そうだわ。これ、ちょっとつけてみない?」

 ママから口紅を渡されました。さしてみると、鏡の中のわたしは、それまでの自分とは違う自分がいたような気がしました。

 翌日、ママさんから連絡があり、わたしは指定された場所へ向かいました。

 「少し離れた場所のほうがいいわよね」

 ママさんは電話でそう言っていました。3駅ほど離れた町の小さな喫茶店でした。喫茶店に入ると、窓際の席に一人の男性が座っていました。初めて顔を合わせるはずなのに、どこか安心感を感じさせる柔らかな表情に、わたしの胸は小さく高鳴りました。

 わたしに気づくと、男性はゆっくりと席を立ち、軽く会釈しました。

 「こんにちは。△△さん…でいらっしゃいますか?」

 その声は思っていたよりも穏やかで、落ち着いていて、妙に胸の奥に響きました。

 「あ、はい…。はじめまして。お待たせしてすみません」

 すると男性は穏やかに首を振りました。

 「いいえ。こちらこそ、お会いできてよかったです。どうぞ、お掛けになってください」

 席に座ると、しばらく沈黙の時間が続きました。その沈黙が、不思議と苦痛ではありませんでした。メニューを手に取りながら男性が言いました。

 「コーヒーでよろしいですか? 苦手じゃなければ…」
 「はい…お願いします」
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