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わたしの妄想日誌
第13章 承認欲求
その言葉が、身体の芯に響きました。
「その…よろしければ、またお会いできればと…」
「もちろんです。こちらからお願いしたいくらいですよ。奥さんは、いつがご都合よろしいですか?」
わたしは少し考えました。いえ、考える振りをしました。
「…明日なら」
「では、今日と同じ喫茶店で。午後二時ごろはいかがです?」
「はい…大丈夫です」
「ありがとうございます。では、明日」
受話器を置くと、子供の声がしました。
「おかあさん、今日の晩ごはん、なに?」
わたしは炊事の仕度を始めました。
翌日、喫茶店に近づくにつれ、足取りは自然と小さくなっていきました。昨日よりも少し濃い口紅を差した自分が、ショーウィンドウのガラスに映っていました。喫茶店の入り口のドアを押し、中へ入ると、前と同じ窓際の席で男性が新聞を広げていました。わたしに気づくと、新聞を静かに畳んで立ち上がりました。
「こんにちは。来てくださって…本当にありがとうございます」
席に着くと、前回と同じ沈黙が流れました。沈黙なのに、なぜか安心できる静けさでした。
「奥さん…昨日より、少し明るいお顔をされていますね」
「そうでしょうか…?」
「ええ。とても、いいお顔をされていますよ」
(また…見てくれている)
店内のクラシック音楽がゆっくりと流れる中、わたしたちは前よりも自然に話し始めました。△△さんは奥さまを既に亡くされていたこと、お子様も独立してお家に一人で暮らしていること、美容室のママさんは奥さまの行きつけの美容室で働いていたことなど…。
わたしもぽつりぽつりと家のことなどを話しました。
「奥さんは…普段、あまりご自分のことを話す機会がないんですね」
「えっ…どうしてそう思われたんですか?」
「話し方が、どこか“遠慮”をしているように聞こえるんです。誰に対しても、いつも気を遣っておられるのでは…」
(なぜ、この人にはこうも簡単に見抜かれてしまうんだろう……)
「もしよろしければ、遠慮せずに話してください。私は…奥さんのお気持ちをちゃんと知りたいですから」
その一言に、喉の奥がつまるような気がしました。わたしはコーヒーカップをそっと両手で包み込みながら小さく笑って、そして涙があふれるのを堪えました。
「その…よろしければ、またお会いできればと…」
「もちろんです。こちらからお願いしたいくらいですよ。奥さんは、いつがご都合よろしいですか?」
わたしは少し考えました。いえ、考える振りをしました。
「…明日なら」
「では、今日と同じ喫茶店で。午後二時ごろはいかがです?」
「はい…大丈夫です」
「ありがとうございます。では、明日」
受話器を置くと、子供の声がしました。
「おかあさん、今日の晩ごはん、なに?」
わたしは炊事の仕度を始めました。
翌日、喫茶店に近づくにつれ、足取りは自然と小さくなっていきました。昨日よりも少し濃い口紅を差した自分が、ショーウィンドウのガラスに映っていました。喫茶店の入り口のドアを押し、中へ入ると、前と同じ窓際の席で男性が新聞を広げていました。わたしに気づくと、新聞を静かに畳んで立ち上がりました。
「こんにちは。来てくださって…本当にありがとうございます」
席に着くと、前回と同じ沈黙が流れました。沈黙なのに、なぜか安心できる静けさでした。
「奥さん…昨日より、少し明るいお顔をされていますね」
「そうでしょうか…?」
「ええ。とても、いいお顔をされていますよ」
(また…見てくれている)
店内のクラシック音楽がゆっくりと流れる中、わたしたちは前よりも自然に話し始めました。△△さんは奥さまを既に亡くされていたこと、お子様も独立してお家に一人で暮らしていること、美容室のママさんは奥さまの行きつけの美容室で働いていたことなど…。
わたしもぽつりぽつりと家のことなどを話しました。
「奥さんは…普段、あまりご自分のことを話す機会がないんですね」
「えっ…どうしてそう思われたんですか?」
「話し方が、どこか“遠慮”をしているように聞こえるんです。誰に対しても、いつも気を遣っておられるのでは…」
(なぜ、この人にはこうも簡単に見抜かれてしまうんだろう……)
「もしよろしければ、遠慮せずに話してください。私は…奥さんのお気持ちをちゃんと知りたいですから」
その一言に、喉の奥がつまるような気がしました。わたしはコーヒーカップをそっと両手で包み込みながら小さく笑って、そして涙があふれるのを堪えました。

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