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わたしの妄想日誌
第13章 承認欲求
 いつの間にか夢中になってしまっていて、呼ばれても気付かなかったようです。わたしは慌てて雑誌を棚に戻しながら、椅子から立ち上がりました。

 「すみません…ぼんやりしていて」
 「ぼんやり? ふふ、すごく真剣な貌してたわよ」

 恥ずかしくて顔が火照ってきます。

 「いいのよ、気にしないで。そんな雑誌置いてるのはわたしのほうなんだから。でも、このへんの奥さんはみんな食い入るように見ているわよ。一緒に置いているお上品な婦人雑誌よりも、くたびれ具合が全然違うんだから」

 わたしの暮らす団地にほど近い美容室です。わたしが見入ってしまっていた…いえ、美容室に来ては手に取るのを密かに楽しみにしている雑誌は、自分で本屋さんで買うにはためらわれるような内容なのです。ママさんがわたしの髪をカットし始めました。

 「あの雑誌、面白いわよね。なにがよかった? 『オンナの独り言』?。それとも『妻たちの午後』?」

 ママさんは全部お見通しなのでしょう。わたしは曖昧な笑顔を浮かべて誤魔化します。

 「雑誌を持ち帰ってもいい? なんていう奥さんもいるんだから」

 わたしと同じような気持ちの奥さんがほかにもいるのだと思うと、少し気が楽になりました。

 「奥さんもよければ持って帰って?」
 「いえ…ウチはちょっと…」
 「うふふ。そうよね。ご主人びっくりしちゃうわよね。本当はご主人に読んで欲しいようなおはなしなんだけど…」

 ママさんはわたしの気持ちを代弁してくれているかのようです。しばらく沈黙が続きました。

 「そういえばね、ちょっと頼まれている話があって。奥さんに興味があれば…だけど…」

 わたしは顔を上げました。

 「え、どんなことですか?」
 「時間はあるけど、ちょっといろいろ持て余しちゃってる…みたいな気持ちの人を探しているのよ。もちろん奥さんさえよければ…だけど」

 何かのお教室のお誘いでしょうか。お花とかお着物の着付けとか…。

 「興味ある?」
 「ええ、ちょっとは」
 「ふふ、そうよね。それでね、あまり大きな声では言えないけれど…信頼できる人を紹介できるかもしれないの。きっと今の奥さんにぴったりの人よ」

 (人? 今のわたしにぴったりの…?)
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