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大きなクリの木の下で
第14章 竹本伸和の正体

「誰だよ!今、すごくいいところなのにさ!」
「竹本さん、その言い方はちょっと…」
まるでイチャついていたと想像されかねない言葉に、静香は慌てて居ずまいをただして「どうぞ、お入りください」と努めて冷静に返答した。
「失礼します」
あの高慢ちきな大沢というナースが困ったような顔をして病室に入ってきた。
「あ、大丈夫ですよ。別に変なことはしていませんから」
慌てて取り繕う竹本を静香がキッと睨んだ。
実際に変なことなどしていなくても、その言い方なら変なことをしていたみたいではないか。
「それどころじゃないの!もう、大変なのよ」
竹本と静香がイチャイチャしていようが知ったことかと言う感じで、大沢は狼狽えていた。
「あ、すいません、面会時間終わりなんですよね
すぐに帰りますので」
静香は面会時間の終わりを告げに来たのだと思って
慌てて帰り支度をしようとした。
「面会時間の終わり?ああ、そのようね。
でも、今夜は特別にあなたがこの方に一晩付き添ってあげてくださらない?」
「えっ?だって、この病院は完全看護だから付き添いは不要だったんじゃ…?」
「ところがそうもいかなくなったのよ!
ほら、今夜から夜勤予定だった由里子さん、彼女を知ってるわよね?」
知っているもなにも、彼女の家に外泊してもらった仲なのだ。
「彼女が何か?」
「さっき、彼女が看護師長を訪ねてきて、辞表を提出しちゃったのよぉ!」
「えっ?辞表を?それはまたどうして?」
「誰にも言わないでね、ここだけの話だから…」
大沢は声をひそめて話し始めた。
「あの方、ご懐妊なさったらしいのよぉ!」
「そうですか、ご懐妊ですか」
いかにも初めて聞いたように竹本は少し驚いたフリをした。
「あの方、40過ぎで未婚だったのよ!
なのに、入籍よりも先にご懐妊だなんてふしだらだと思いません?」
不意に大沢は静香を見つめて女としてどう思います?と同意を求めてきた。

