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大きなクリの木の下で
第14章 竹本伸和の正体

「談話室に誰か面会にでも来ているの?」
あなたは個室に入院しているのだから、
談話室を使わずとも、個室の方が落ち着いてお話が出来るでしょうにと大沢は怪訝そうな顔をした。
「いえ、ちょっと大事な電話をしたいので…」
「あ、もしかして入院費の心配かしら?
それなら安心してね、あなたの勤め先の出版社から、かなり高額を前払いで頂いているから」
ふん!どうせ、あの人の差し金だろう。
金さえ出しておけばそれで良いだろうと見舞いにも来ないんだから…
「さあ、談話室に到着よ
長電話しちゃダメよ。入院患者さんは誰もみな外部と連絡を取りたがっているんだからね」
大沢はご丁寧にも公衆電話のすぐそばに車椅子を横付けしてくれた。
「すいません、ご迷惑ついでにダイヤルをプッシュしてくれませんか?」
そう言って竹本は小銭と電話番号が書かれたメモを大沢に差し出した。
「本当に世話のかかる人ね」
きっと、こういう話し方しか出来ない人なのだろう。
気持ちのこもっていないしゃべり方だけれど、
それぐらい自分でしなさいよともいわずにダイヤルをプッシュしてくれた。
「やっぱり車椅子で座ったままだと、この電話の位置は少し高いわよね」と竹本が思っていることを理解してくれた。
「お話は何分ぐらいで終わるの?
その頃を見計らって迎えに来てあげるから、ここで待ってるのよ」
通話に聞き耳を立てるのは悪いだろうと気を利かせて
ダイヤルをプッシュすると大沢はその場を離れてくれた。

