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大きなクリの木の下で
第13章 刑事 真垣幸太郎

そんなバタバタしている刑事課に白百合のような可憐な女性が訪ねて来たものだからむさ苦しい刑事たちは色めきたった。

訪ねて来たのは静香だった。
彼女は美代子との事情聴取の際にブラウスを破られてしまい、若い刑事からジャケットをお借りしたのだが、
返さねばならないと、ちゃんとクリーニングをして持参してきたのだ。

「失礼します…刑事課ってここでいいんでしょうか?」

か細い声でそのように尋ねても
賑やかな課内では誰も聞き止めてくれない。

「おや、あんた」

課内をキョロキョロと見渡す静香に気づいた片岡が立ち上がり、
脱いでいた靴を踵を踏み潰して急いで履き直すと、「雨宮さんではないですか」と大きな声で呼び掛けた。

「あ、刑事さん!」

見知った顔を見つけて、不安そうだった静香の顔にようやく安堵の色が浮かぶ。

「お嬢さん、どうしてここに?」

「いえ、ほら、先日に若い刑事さんからジャケットをお借りしたものですから」

それを返しに来たんですと静香は大きな紙袋を掲げた。

「そうですか、それはどうもわざわざ…」

あいつ、今日は非番でここには居ないんですよと告げると
静香はあからさまにガッカリした表情をした。

あれ?もしかして、この子、あいつに脈ありなんじゃ…

「お休みなんですか…じゃあ、これ、あの人に渡しておいていただけますか?」

そう言って差し出した紙袋を受け取りかけて
「ええっと…出来ればあなたの手から渡してあげてくださいな
いや、あいつの部屋はすぐそこなんですよ」そう言うと片岡は『俺、愛のキューピッドってやつかもな』と内心ニヤニヤしながら、真垣のアドレスを無理やり静香に手渡した。
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