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大きなクリの木の下で
第13章 刑事 真垣幸太郎

刑事課の自分のデスクにふんぞり返って年輩の刑事である片岡は靴を脱いで繁々と眺めていた。
「やめてくださいよ、臭いんだからぁ」
デスクワークの手伝いに来ている婦人警官が、いかにも汚ならしいと言わんばかりのしかめっ面で睨んでくる。
「お前らにはわからんだろう
この靴の磨り減った分だけ俺たちが世の中の平和をもたらしているんだ」
自分でも「おっ、今、良いことを言ったな」と思って
くたびれた革靴を愛しそうに眺める。
「よせよせ、今日は相棒の真垣が非番だから機嫌が悪いんだよ」
一人の刑事がほっておいてやれよと婦人警官を嗜める。
『真垣か…あいつも早く一人前になってもらわんとな…』
若い刑事の教育係として片岡は否応なしに新米の真垣とペアを組まされた。
刑事としてまだまだだと思うけれど、片岡としてはノウハウを出来るだけ彼に教え込んできたつもりだ。
「そろそろこの靴もお釈迦かなあ…」
刑事として長年勤めあげてきて、今までに何足の靴をダメにしてきただろうか…
若い片岡はスニーカーを愛用する。
その方が走りやすいし、足も疲れないからとほざく。
『バカ言ってんじゃねえよ
ちゃんと背広を着こなして革靴を履くのが正式なスタイルだろうに』
「しかし、何だなあ、ようやくあいつらを送検出来ますね」
向かいのデスクから孫の手で背中を掻きながら一人の刑事がやれやれですねと片岡に話題を振ってくる。
「送検ねえ…まだまだ言質(げんち)が欲しかったところだがね」
被害者の大場美代子が薬物依存で
まだまだ発作的に暴れるものだから片岡としては満足のゆく供述がもらえなくて、これで送検しても大丈夫なのかと危惧していた。

