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大きなクリの木の下で
第9章 由里子の家

食卓にはたくさんの小鉢が並んでいる。
家族以外の客人のために料理をするのがこんなにも楽しいものなのかと、忘れかけていた高揚感を由里子の母は胸をときめかせていた。
前日の食事時に、娘の由里子が不意に「我が家に招きたい男性がいるの」と言い出した。
ナースという就業時間が変則的な職業ゆえに
娘の由里子には彼氏が出来たという浮わついた話しもなく
このまま未婚のまま年齢を重ねて行くのねと
半ば娘の婚姻については諦めかけていた。
そこへ降ってわいたように男を連れて来るという娘の話しに母の登喜子は飛び上がらんばかりに喜んだ。
「どんな方なの?どこで知り合ったの?」
ワクワクしながら根掘り葉掘り娘に問いかけた。
もしかして職業柄、医師をゲットしたのかもしれない。
だとしたらとんでもない玉の輿だ。
「やだぁ、勘違いしないでよ
今、うちの病院に入院している患者さんなんだけど、
どうも身内の方がいないみたいで、外泊許可を取ってもどこにも行く宛がないらしいのよ」
「だからうちに招いてあげたいの?」
典型的なナイチンゲール症候群(看護師など医療従事者が、患者に対して恋愛感情や性的感情を抱く現象)だわと
母の登喜子は気乗りしなかった。

