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大きなクリの木の下で
第9章 由里子の家

あまりに快適なドライブに
ついつい、ウトウトとしはじめたら「到着いたしました、こちらでよろしいでしょうか?」という運転手の声にハッと我に返った。
「ありがとうございます、もう少し先にスロープがあるのでそちらまでお願いできますか?」
お安いご用ですと運転手は不服そうな顔もせず、
それどころか「すいません、気がつきませんで…」と恐縮してくれた。
「親切で丁寧な運転手さんでしたね」
由里子に車椅子を押してもらいながら竹本は普段利用しているタクシーのドライバーが無愛想だけに感激していた。
「あの方、介護福祉士の資格も取得されているらしいの
以前は老人ホームに勤務されていたそうよ」
なるほど、障がい者や老人の扱いには慣れているというわけか。
スロープ完備のマンションではあったが、
エレベーターにしても廊下にしてもかなり狭いものだった。
バリアフリー設計というよりもベビーカーを意識しての設計なのだろう。
「この部屋よ、今日から二日間おもいっきり羽を伸ばしてね」
由里子がドアを開けて玄関内に進み出て竹本はギョっとした。
そこには竹本と同じように車椅子に乗った男性と、その後ろで介助する女性が満面の笑みで竹本を出迎えてくれたからだ。
「いらっしゃい、あなたが竹本さんね」
ご婦人が「由里子の母です」と自己紹介をしてくれた。
車椅子に乗った男性がおそらく脳梗塞の後遺症で左半身が麻痺している父親なのだろう。
「いらっじゃい…ういおのぢぢでう」
半身が麻痺して舌の滑舌も悪いのだろう。
聞き取りにくかったが「いらっしゃい、由里子の父です」と言っているのだろうと解釈できた。

