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大きなクリの木の下で
第9章 由里子の家

「あら、外泊許可が降りたのね?
いいわねえ、羽を伸ばせるわね」

廊下ですれ違うナースたちが
入院着からパジャマに着せかえられて車椅子で病棟を後にする竹本に声をかけてくれる。

その車椅子を押しているのは同僚の由里子だとは誰も気づかない。
大きなツバのついた帽子を目深にかぶり、
サングラスをしてマスクで顔を隠しているし、
見慣れたナース服ではなく、普段見せる事のない華やかなピンクのワンピースなのだから誰もが由里子だとは気づかなかった。

「意外と気づかれないものなんですねえ」

「気づいている方もいるかもしれないけれど、
みんなそれぞれ詮索しないだけよ」

病院玄関には由里子が手配してくれていたのか、
介護タクシーが待機してくれていた。

「運転手さん、お願いしますわね」

由里子が運転手に声をかけると、
運転手は「かしこまりました」と介護タクシーの背面のハッチバックを開いてリフトが降りてきた。

「へえ~、こんな風になっているんですね」

車椅子のままリフトに乗せて、そのまま車内に搭乗できるのでとても楽だった。

「行き先はお聞きしたマンションでよろしいのですね?」

「ええ、よろしくね」

後部座席に車椅子を載せているということで、
とても安全運転で乗り心地の良さに思わず居眠りしそうだった。

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