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誰にも言えない、紗也香先生
第5章 川沿いのキャンディゲーム
ワイングラスに触れたリザの唇が、
そのまま私の口元へと近づいてきた。

「ねえ、味わって――舌で。」

彼女の口から運ばれた赤い液体は、
葡萄の香りを超え、どこか遠くて甘い幻想の味に変わった。

唇が重なった瞬間、
窓のガラスに、二人の熱が霧を描いた。

「写真より…実物、見たいんでしょ?」
リザの囁きに、心の奥が震える。

戸惑いながらも導かれた指が、
自分でも知らなかった扉を開けるように、
眠っていた夜の花を、そっとなぞった。

かすかな水音、
それは誰にも届かない、密やかな調べ。

この夜の香りも、音も、痛みも、
きっと彼女の中でしか咲かせられない――

「…もう戻れない…よ?」
心でつぶやいたその声は、唇から漏れなかった。
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