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わたしの昼下がり
第3章 訪ねてきた男
 確かに灰皿に自分が吸わない銘柄の吸い殻があったらおかしいし、タバコの香りも多分違ったりもするのでしょう。ただ女としての悦びを感じていればいい立場ではない現実に引き戻されます。

 夫の嗅覚がそこまで鋭いようには思えませんけど、細心の注意を払った上で忍んできてくれそうな△井に心も少し動いてしまいました。身体だけでなく…。この男なら奥様連中の眼もかいくぐってくれるだろうと思いました。

 (今度はいつ…?)

 そう思うわたしの心理を読んでくれたのでしょうか、△井が囁きます。

 『明日にでも…』

 (明日…)

 『明日にでも…またお邪魔したいところですが、人目については奥さんも御迷惑でしょうから…そうですね…2週間後くらいにまた…今日と同じくらいの時間でよろしいですか』

 (2週間…)

 『では2週間後に…。ああ…もちろんのことですが、急にご都合が悪くなったりご不在になったりしていても全く構いませんから。チャイムを鳴らしてしばらく何もなければおとなしく帰りますので』

 わたしは黙っていたままでしたが、断るはずもないと△井は確信しているように次に訪ねてくる日にちを決めると、手早くスーツ姿に戻っていきます。細かい段取りがこうした情事の経験が豊富なことを思わせました。

 『次回が楽しみです。指輪もそのまましておいてくださいね』

 そう言ってわたしの唇をひとしきり貪ります。

 『いや、ほんと…膣内《なか》で射精《だ》させてもらえるとは思ってませんでしたよ…。ご主人ともちゃんとヤっておいてくださいね…』

 △井がドアを音もたてずに閉めて出て行きました。わたしが夫がある身であるということを念押しするように言い残して。わたしは夫以外の男根を咥え込んでまだうずうずと疼く火照った秘部から、夫以外が放った名残りのぬめりをティッシュペーパーで拭います。何回拭っても後からじわじわとぬめりが垂れ出てきて、わたしはティッシュペーパーを何枚も使いました。

 (本当に…来て…くれるのかしら…)

 久しぶりにセックスの悦びを味わってしまったわたしは、不安な気持ちにとらわれました。△井にとっては、わたしの『ご都合』が悪ければどこかほかの家を訪ねればいいだけなのでしょうから。壁に掛かるカレンダーを眺めます。特になんの予定もありません。
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