この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
unbalance
第30章 個室
「資料がめっちゃ優秀なのはもうわかってるとして、こんな残業してるのに、嫌な顔ひとつしないところとか、ぜんぜん疲れ見せないところとか。
毎朝ちゃんとメイクして、可愛い髪型して、いつも同じじゃない服着て来てさ。
ぜんぜん手抜き感が見えねえの」
こいつ、人のお化粧とか服とかそんなチェックしてんの?
油断も隙もあったもんじゃない。
「だって……嫌じゃない。自主的に残業してる癖にしんどそうな顔してる人と、一緒に仕事するの」
至極当たり前のことを言うと、相馬はじっと黙って、それから、
「そういうとこが好きなんですよ」
ぽつりとそう言った。
相馬がいきなり、グラスを握ったままの私の手に、そっと自分の手を添えた。
その手は冷たかった。
ビールグラスを持っていたからか、それとも――
「信じてくれた?」
相馬が顔を上げ、上目遣いで私を見る。
……ずるいよ、そんなの。
その不安そうな目が、彼の策略だとわかっている。
こうやって人の心に取り入って、いつも大口の契約を取ってくるんだ。
わかっているのに、わかっているのに――

作品検索
しおりをはさむ
姉妹サイトリンク 開く


