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unbalance
第39章 カレー
不意に相馬がポケットからスマホを出す。
なあんだ。あんな寂しそうな顔をしておいて、やっぱり演技か。
スマホなんかですぐ気がそれるなんて。
私はまた前を向いて、歩き出した。
ぶぶ、と私のスマホが鳴った。よくないとわかっていながらも、歩きながらスマホ開いてしまったのは、――期待していたからだ。
『霧野も寂しい?』
……やめてよ。せっかく我慢したのに。
『寂しいに決まってるじゃん』
『あんま心こもってないな?』
『心こめたら辛くなるでしょ』
勢いでそう返してしまって――しまった。
相馬からの返事には数分待った。
もう電車が来てしまう。
引き留めるなら今だよ、ねえ、相馬――
『よかった』
相馬からの返事はそんな言葉だった。
『ほんとは今からでも連れて帰りたいところだけど、我慢する』
相馬も、我慢してくれてる、んだ。
『また来週。来週になる前にもこうやって話してくれたら嬉しいけど。話し掛けていい?』
ああ、これは、相馬の戦略か、それとも本心か。
『いいよ』
小躍りしているキャラクターのスタンプに思わず頬を綻ばせて、私は電車に乗った。
スマホを胸に抱き締めながら。

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