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千一夜
第47章 第七夜 訪問者 疑惑
私が遠山機械工業に連絡を取ると、咲子の父は午前中のスケジュールを全部キャンセルした。私の両親が遠山の屋敷に招かれたのだ。
遠山高獅の前で借りてきた猫のようになっている父と母の姿が浮かんだ。ハンカチは忘れていないだろうか。私も初めて咲子の父に会ったとき、大して暑くもないのに額や背中に妙な汗が流れた。遠山家は正真正銘の武門の家柄。時代が違えば私の両親は遠山の家の門を潜ることさえ許されない。自分の息子がそういう家の娘と結びつく。おそらく私の両親は、まだ自分の息子の現実をしっかり理解できていないだろう。
ただ親というものは、ときに不思議なことをする。私が仕事を終えて家に帰ると、両親が私の家の掃除をしていた。
「何してんの?」私がそう問いかけると「見ればわかるだろ、掃除をしているんだ」と父は私に言った。
師走になっても父が家の掃除をしたことなんて私は見たことがない。私の父は、亭主関白を絵に描いたような男で、料理や掃除洗濯は女がするものだと思っているような人間だ(そういう人間の心が簡単に改まることなんてない)。
言い訳しているように聞こえるかもしれないが、私は自分の部屋を汚部屋にしたことなど一度もない。小さな家には物だって少ないし、そもそも私は掃除をこまめにする。掃除をしてもらう必要なんて全くないのだが、それでも父は掃除機をかけ、母は雑巾がけをした。
そしてこの両親の行動は、私と咲子の披露宴が終わるまで毎日続いた。私が家にいなくても、両親は毎日私の家にやってきて、私の家を掃除した。余談になるが、私の両親は私が咲子と結婚した後も、咲子のことを「お嬢様」と呼んだ。
週が明けて市長は退任の会見をした。市長は後継者として私を指名した(選挙があろうとなかろうと、私は市長になる)。現市長の市政を受け継いで、街の発展のために命懸けで仕事をする。地元記者の質問に私はそう答えた。
市庁舎玄関口、私は花を抱えていた。部下に見送られて私は市庁舎を出た。統括課長の退職に相応しくない光景だが、元統括課長が次期市長になるとなれば話は別だ。地元テレビだって、次の市長(何度でも言う。私が次の市長になる)の絵は必要なのだ。
一連の儀式(?)が終わった後で、私と咲子は二人で婚姻届けを役所に出した。遠山咲子は、その瞬間長谷川咲子になった。
遠山高獅の前で借りてきた猫のようになっている父と母の姿が浮かんだ。ハンカチは忘れていないだろうか。私も初めて咲子の父に会ったとき、大して暑くもないのに額や背中に妙な汗が流れた。遠山家は正真正銘の武門の家柄。時代が違えば私の両親は遠山の家の門を潜ることさえ許されない。自分の息子がそういう家の娘と結びつく。おそらく私の両親は、まだ自分の息子の現実をしっかり理解できていないだろう。
ただ親というものは、ときに不思議なことをする。私が仕事を終えて家に帰ると、両親が私の家の掃除をしていた。
「何してんの?」私がそう問いかけると「見ればわかるだろ、掃除をしているんだ」と父は私に言った。
師走になっても父が家の掃除をしたことなんて私は見たことがない。私の父は、亭主関白を絵に描いたような男で、料理や掃除洗濯は女がするものだと思っているような人間だ(そういう人間の心が簡単に改まることなんてない)。
言い訳しているように聞こえるかもしれないが、私は自分の部屋を汚部屋にしたことなど一度もない。小さな家には物だって少ないし、そもそも私は掃除をこまめにする。掃除をしてもらう必要なんて全くないのだが、それでも父は掃除機をかけ、母は雑巾がけをした。
そしてこの両親の行動は、私と咲子の披露宴が終わるまで毎日続いた。私が家にいなくても、両親は毎日私の家にやってきて、私の家を掃除した。余談になるが、私の両親は私が咲子と結婚した後も、咲子のことを「お嬢様」と呼んだ。
週が明けて市長は退任の会見をした。市長は後継者として私を指名した(選挙があろうとなかろうと、私は市長になる)。現市長の市政を受け継いで、街の発展のために命懸けで仕事をする。地元記者の質問に私はそう答えた。
市庁舎玄関口、私は花を抱えていた。部下に見送られて私は市庁舎を出た。統括課長の退職に相応しくない光景だが、元統括課長が次期市長になるとなれば話は別だ。地元テレビだって、次の市長(何度でも言う。私が次の市長になる)の絵は必要なのだ。
一連の儀式(?)が終わった後で、私と咲子は二人で婚姻届けを役所に出した。遠山咲子は、その瞬間長谷川咲子になった。

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