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千一夜
第48章 第7夜 訪問者 正体
「お腹が空いたんですけど」
私と咲子は、樋口というドライバーが運転する観光タクシーの後部座席に座ている。険悪な状況にも関わらず咲子は遠慮なしに感じたことを言い放つ。
咲子の言葉を補足するとこうなるだろう。お腹が空いたんですけど、あなた何とかしてくださる?
「運転手さん、この辺で朝食を食べることができるようなところありますか?」
「お客さん、ホテルで食べへんかったの?」
「朝食が出ないホテルだったんです」
「部屋も狭かったわ」
どさくさ紛れに咲子が不満を漏らす。
「日本食? それとも洋食?」
「日本食にして。できればお味噌汁の美味しいところ」
と咲子がリクエストをした。
「そやったらあそこやけど、予約なしだとあそこはあかんな」
「運転手さん、何とかして」
「運転手さんに無理を言うもんじゃない」
私がそう言ったら咲子から睨まれた。
「電話してみますわ。ひょっとしたらキャンセルとか出てるかもしれへんし。ちょっと時間くださいな」
運転手の樋口がそう言うと、咲子の勝ち誇った目が私に向かってきた。
樋口が車を止めスマホで検索する。お目当ての店を見つけると樋口が電話した。
「二人なんやけどなんとかならへんかな。うん、そうそう。店の評判ききはったみたいなんや。そうや、観光で来てはるんや。えっ、オーケー? ええんやな? 助かったわ、おおきに。十分……いやそんなかからへな。すぐ行くわ。はい」
樋口は電話を切ると、私ではなく咲子の方見て「美味しいごはん待ってまっせ」と言った。
「ありがとう」
咲子は樋口にそう言うと、勝ち誇った目を私に向けた。
樋口の運転する車が止まった。住宅街の一角みたいなところで、お店の前に土鍋という文字が入った看板がなかったら通り過ぎてしまうかもしれない(もちろんプロの樋口は見逃さない)。
「土鍋って、ご飯は土鍋で炊いてるの?」
「そうですよ、奥さん」
咲子の表情が少しだけ緩む。
「ご飯が美味しいお店は、きっとお味噌汁も美味しいわ」
「……」
自分もそう思う、と言いたかったが、私はまだ素直になれない。
「運転手さんも食べていきましょうよ」
咲子が樋口を朝食に誘ったが、丁重に断られた。自分の朝食はもう済んでいるし、電話で予約したのは二人だからということだった。
「どうぞごゆっくり」
樋口は私たちを下ろすと、近くの駐車場に向かった。
私と咲子は、樋口というドライバーが運転する観光タクシーの後部座席に座ている。険悪な状況にも関わらず咲子は遠慮なしに感じたことを言い放つ。
咲子の言葉を補足するとこうなるだろう。お腹が空いたんですけど、あなた何とかしてくださる?
「運転手さん、この辺で朝食を食べることができるようなところありますか?」
「お客さん、ホテルで食べへんかったの?」
「朝食が出ないホテルだったんです」
「部屋も狭かったわ」
どさくさ紛れに咲子が不満を漏らす。
「日本食? それとも洋食?」
「日本食にして。できればお味噌汁の美味しいところ」
と咲子がリクエストをした。
「そやったらあそこやけど、予約なしだとあそこはあかんな」
「運転手さん、何とかして」
「運転手さんに無理を言うもんじゃない」
私がそう言ったら咲子から睨まれた。
「電話してみますわ。ひょっとしたらキャンセルとか出てるかもしれへんし。ちょっと時間くださいな」
運転手の樋口がそう言うと、咲子の勝ち誇った目が私に向かってきた。
樋口が車を止めスマホで検索する。お目当ての店を見つけると樋口が電話した。
「二人なんやけどなんとかならへんかな。うん、そうそう。店の評判ききはったみたいなんや。そうや、観光で来てはるんや。えっ、オーケー? ええんやな? 助かったわ、おおきに。十分……いやそんなかからへな。すぐ行くわ。はい」
樋口は電話を切ると、私ではなく咲子の方見て「美味しいごはん待ってまっせ」と言った。
「ありがとう」
咲子は樋口にそう言うと、勝ち誇った目を私に向けた。
樋口の運転する車が止まった。住宅街の一角みたいなところで、お店の前に土鍋という文字が入った看板がなかったら通り過ぎてしまうかもしれない(もちろんプロの樋口は見逃さない)。
「土鍋って、ご飯は土鍋で炊いてるの?」
「そうですよ、奥さん」
咲子の表情が少しだけ緩む。
「ご飯が美味しいお店は、きっとお味噌汁も美味しいわ」
「……」
自分もそう思う、と言いたかったが、私はまだ素直になれない。
「運転手さんも食べていきましょうよ」
咲子が樋口を朝食に誘ったが、丁重に断られた。自分の朝食はもう済んでいるし、電話で予約したのは二人だからということだった。
「どうぞごゆっくり」
樋口は私たちを下ろすと、近くの駐車場に向かった。

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