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千一夜
第43章 第七夜 訪問者 ゴースト
 確かに私が席に戻ると、部下たちが自分の席を立ち上がって私のところにやってきた。
「統括、お辞めになって市長になるって本当ですか?」
 部下の誰がそう言ったのかわからない。私はどういう顔をしたらいいのか、どう答えればいいのかを考えていた。
 辞めて市長になる……何だかおかしく思えた。部下たちも知っている。遠山さえ味方につければ、統括課長を辞めた後でも簡単に市長になれるということを。
「私がいつ辞めると言った。そんなことより仕事だ。みんな仕事に集中しなさい」
 滑稽な言葉だ。そう言えば政治家はよくこんな言い方をして大事なことをはぐらかしていたな。まさか自分がそうなるとは。
 私が席に座ろとしたときだった。二階のフロアに遠山が現れた。数十人いる職員の目が遠山に向かう。と同時に職員たちは蝋人形のように固まった。人の声どころか、雑音すら聞こえない。街で一番の権力者は音を消す力を持っている。
 遠山は私を認めると「おい」と言って手招きした。「はぁ」心の中でため息が漏れた。もしかしたらこのため息も遠山にきかれたかもしれない。
 遠山を無視できる人間はこの街にはいない。私は遠山のところに早足で向かった。
 遠山は私にこう言った。
「今日の夜、私の家に来るんだ。わかったな」
 静寂の中、遠山の声は広いフロアの隅まで届いた。
「はい」
 私は遠山に深く頭を下げた。
 遠山がフロアから姿を消した瞬間、緊張に包まれた空気が一気に開放に向かうのが分かった。遠山がいなくなると、職員達の視線は束になって私のところにやってきた。
 そうか、これだったのか。これは沢田絵里の脚本演出に違いない。この様子を見て職員たちは確信したはずだ。次の市長はこの男がなる。よろしく頼むぞと遠山は職員達に見せたのだ。出馬表明は必要なくなった。
 昼食時間を私はわざとずらした。食堂に職員が多くいる時間を避けた。私は芸能人でも何でもない。人の視線を集めるために仕事をしているのではない。ただ、隠れようにも隠れる場所がここにはないが。
 人の少ない食堂でランチを食べていても、普段接することがない人間からの視線を感じた。そんなとき、香坂が私にこう声を掛けた。
「長谷川市長、ここよろしいですか?」
 香坂は手にコーヒーが入っている水筒を持っていた。コーヒー好きの香坂の水筒の中はいつもコーヒーと決まっている。
「ふざけるな」
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