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千一夜
第43章 第七夜 訪問者 ゴースト
人を押しのけて出世するくらいなら体育館の館長で十分だ。コツコツと仕事をして、退職まで静かに暮らす方が自分の性分に合っている。
確かに私はそう思っていた。そしてそれは私の本音だ。だが私は、私の心の声を誰かに漏らした覚えがない。どうして沢田絵里は私の心が読めたのだろうか。
まずい、私は心の動きが顔に出るのだそうだ。今の気持ちも沢田に読まれたかもしれない。
「長谷川さん、お持ちの退職願いはご自宅でお書きください」
絵里は私が持っている封筒に目をやってそう言った。
「もちろんです」
退職願を職場で書く馬鹿はこの世にはいない。
「長谷川さんに言っておかなければならないことがあります」
「何でしょうか?」
「長谷川さんが席に戻られると、長谷川さんは、長谷川さんの部下に囲まれます」
「どうしてですか?」
「私の方から意図的に長谷川さんが退職をして市長選に出るとことを長谷川さんの部下に流しました」
「どうしてそんなことを?」
腹が立った。私の意志などどこにもない。というか私はこの絵里という女の操り人形に成り下がっている。
「長谷川さんの部下は長谷川さん味方です。でもただの味方ではだめなんです。長谷川さんが必要なのは強い味方です。長谷川さん、あと数週間の間で、もっともっと部下の心を掴んでおいてください」
「……」
部下の心を掴むために仕事があるわけじゃない。もううんざりだ。
「ペナルティ」
「ペナルティ?」
「圧勝しなければ長谷川さんにもペナルティが課せられます。この街と遠山機械工業は一心同体です。長谷川さんが市長になられても遠山グループの協力がなければ、この街は間違いなく衰退していきます。主要な研究機関や第一工場の海外移転なんてことになったら、この街は大打撃を受けることになるでしょう。そうなったらどうされます?」
「……」
答えられなかった。
「この街は遠山家の城下町なんです。遠山が出たら他の企業を呼べばいいなんて夢にも思わわいでくださいね。少なくとも十年、遠山の色の濃い街には企業は目を向けません」
「……」
「もう一度言います。長谷川さん、あなたにはもう退路はありません」
「わかりました。最後に一つだけ訊いていいですか?」
「何でしょう?」
「あなたは本当に立花京子じゃないんですか?」
「ふふふ、長谷川さん、そう思いたければどうぞ私を立花京子だと思ってください」
確かに私はそう思っていた。そしてそれは私の本音だ。だが私は、私の心の声を誰かに漏らした覚えがない。どうして沢田絵里は私の心が読めたのだろうか。
まずい、私は心の動きが顔に出るのだそうだ。今の気持ちも沢田に読まれたかもしれない。
「長谷川さん、お持ちの退職願いはご自宅でお書きください」
絵里は私が持っている封筒に目をやってそう言った。
「もちろんです」
退職願を職場で書く馬鹿はこの世にはいない。
「長谷川さんに言っておかなければならないことがあります」
「何でしょうか?」
「長谷川さんが席に戻られると、長谷川さんは、長谷川さんの部下に囲まれます」
「どうしてですか?」
「私の方から意図的に長谷川さんが退職をして市長選に出るとことを長谷川さんの部下に流しました」
「どうしてそんなことを?」
腹が立った。私の意志などどこにもない。というか私はこの絵里という女の操り人形に成り下がっている。
「長谷川さんの部下は長谷川さん味方です。でもただの味方ではだめなんです。長谷川さんが必要なのは強い味方です。長谷川さん、あと数週間の間で、もっともっと部下の心を掴んでおいてください」
「……」
部下の心を掴むために仕事があるわけじゃない。もううんざりだ。
「ペナルティ」
「ペナルティ?」
「圧勝しなければ長谷川さんにもペナルティが課せられます。この街と遠山機械工業は一心同体です。長谷川さんが市長になられても遠山グループの協力がなければ、この街は間違いなく衰退していきます。主要な研究機関や第一工場の海外移転なんてことになったら、この街は大打撃を受けることになるでしょう。そうなったらどうされます?」
「……」
答えられなかった。
「この街は遠山家の城下町なんです。遠山が出たら他の企業を呼べばいいなんて夢にも思わわいでくださいね。少なくとも十年、遠山の色の濃い街には企業は目を向けません」
「……」
「もう一度言います。長谷川さん、あなたにはもう退路はありません」
「わかりました。最後に一つだけ訊いていいですか?」
「何でしょう?」
「あなたは本当に立花京子じゃないんですか?」
「ふふふ、長谷川さん、そう思いたければどうぞ私を立花京子だと思ってください」

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