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千一夜
第43章 第七夜 訪問者 ゴースト
「その顔だと心当たりがあるようだな」
「はい、兵頭和馬先生だと思います」
「その通りだ。兵頭和馬はもうこの世にはいない。兵頭の弟子、桜井浩一が私に話してくれた」
「遠山会長は桜井先生にお会いになったのですか?」
「K大学の現教授のところに調査員を向かわせるほど私は間抜けではない。桜井は私のために時間を作ってくれた」
「そうだったんですか」
経済的にはつらい大学生活だったが、兵頭や桜井から学べたことは有意義だった。いやいや有意義なんて言葉で済ませてはいけない。兵頭や桜井から学んだものは私の大切な財産だ。だから今でも兵頭や桜井に私は感謝している。
「大学院を勧められても君は断った。兵頭はそのとき金なら何とかすると言ったそうじゃないか」
「お金のことを兵頭先生にお願いすることはできません」
「確かに君はそう言っていたと桜井は私に教えてくれた。だが、兵頭が激怒したのはそこではなかった」
「覚えてるか?」
「はい」
「兵頭は君をM商事やM物産に紹介した。それも人事を担当している兵頭の教え子ではなく、M商事やM物産の役員たちに。ところが君はそれも断った」
「はい」
「そのとき、兵頭は君に何と言った?」
「こう言われました『この大馬鹿者!お前の顔など見たくない、ここから出て行け!』と」
後にも先にもあんな風に怒鳴られたのは初めてだった。忘れようと思っても忘れることができない。いや違う、私はあの兵頭の言葉をずっと自分の中に留めておきたいのだ。自分は大馬鹿者だ。ならばその大馬鹿者は今何をすべきなのか。
「ふん。桜井が言っていた。体を悪くして自宅で静養している兵頭を見舞いに行くと、兵頭はいつも「あの大馬鹿者は今何をしているのだろうか?」と桜井にそう訊ねていたそうだ」
「……」
「馬鹿は所詮馬鹿でしかない。だが大馬鹿者は可愛いものなのだ」
「……」
「話が終わり、私が席を立とうとしたときだった。桜井が私にこう訊ねたんだ『ところで兵頭先生の葬式のときに大泣きをしてたあの大馬鹿者は今何をしていますか?』とな」
「私はこう答えた。今は市の統括課長をしていているが年末の市長選に出ると」
「……」
「桜井が何と言ったかわかるか?」
「いいえ」
「桜井は私にこう言った『市長ですか、もったいないな。あの大馬鹿者ならもっと上に行けるのに』
「……」
「これから君はこの街と遠山のために働くんだ」
「はい、兵頭和馬先生だと思います」
「その通りだ。兵頭和馬はもうこの世にはいない。兵頭の弟子、桜井浩一が私に話してくれた」
「遠山会長は桜井先生にお会いになったのですか?」
「K大学の現教授のところに調査員を向かわせるほど私は間抜けではない。桜井は私のために時間を作ってくれた」
「そうだったんですか」
経済的にはつらい大学生活だったが、兵頭や桜井から学べたことは有意義だった。いやいや有意義なんて言葉で済ませてはいけない。兵頭や桜井から学んだものは私の大切な財産だ。だから今でも兵頭や桜井に私は感謝している。
「大学院を勧められても君は断った。兵頭はそのとき金なら何とかすると言ったそうじゃないか」
「お金のことを兵頭先生にお願いすることはできません」
「確かに君はそう言っていたと桜井は私に教えてくれた。だが、兵頭が激怒したのはそこではなかった」
「覚えてるか?」
「はい」
「兵頭は君をM商事やM物産に紹介した。それも人事を担当している兵頭の教え子ではなく、M商事やM物産の役員たちに。ところが君はそれも断った」
「はい」
「そのとき、兵頭は君に何と言った?」
「こう言われました『この大馬鹿者!お前の顔など見たくない、ここから出て行け!』と」
後にも先にもあんな風に怒鳴られたのは初めてだった。忘れようと思っても忘れることができない。いや違う、私はあの兵頭の言葉をずっと自分の中に留めておきたいのだ。自分は大馬鹿者だ。ならばその大馬鹿者は今何をすべきなのか。
「ふん。桜井が言っていた。体を悪くして自宅で静養している兵頭を見舞いに行くと、兵頭はいつも「あの大馬鹿者は今何をしているのだろうか?」と桜井にそう訊ねていたそうだ」
「……」
「馬鹿は所詮馬鹿でしかない。だが大馬鹿者は可愛いものなのだ」
「……」
「話が終わり、私が席を立とうとしたときだった。桜井が私にこう訊ねたんだ『ところで兵頭先生の葬式のときに大泣きをしてたあの大馬鹿者は今何をしていますか?』とな」
「私はこう答えた。今は市の統括課長をしていているが年末の市長選に出ると」
「……」
「桜井が何と言ったかわかるか?」
「いいえ」
「桜井は私にこう言った『市長ですか、もったいないな。あの大馬鹿者ならもっと上に行けるのに』
「……」
「これから君はこの街と遠山のために働くんだ」

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