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千一夜
第43章 第七夜 訪問者 ゴースト
「君も薄々は感じていただろうが、私は君のことを調べた。徹底的に調べ上げたと言った方がいいかな。気分を悪くしたか?」
「いいえ」
自分のことを調べられて気分を害さない人間はいない。
「君を悪く言う人間は一人もいなかった。勉強はできる。仕事は市民のためにコツコツと真面目にする」
「……」
「茶室は見たか?」
「はっ?」
「函館で私の茶室を見たかと訊いているんだ」
「申し訳ございません」
「咲子だな。あいつは昔からそうだった。するなということを私の目を盗んでする。高彦も一子も私が怖いから絶対にしない。でも咲子は違った。私に叱られて泣いてもあの子は懲りない。『ごめんなさい、もうしません』咲子から何度それを聞いたか」
「……」
何となく想像ができた。あの咲子なら見たいものは見るし、やりたいことはやる。たとえ自分の父に止められたとしても。
「高彦も一子も社長の器じゃない。高彦は学ばない。一子は勉強はできても強い意志がない。咲子は勉強も運動もできた。一番関心することは私に逆らうことを屁とも思っていないところだ。咲子の小学生時代の運動会には私はどんなに忙しくても応援に行った。ゴールに張られたテープを一番に切る咲子が誇らしかったよ。ところが中学高校はダメだったな。どうしてだかわかるか?」
「いいえ」
「ここだよ」
「……」
遠山は両手を使い、咲子の胸の膨らみを作って私に見せたのだ。咲子は胸が大きい。
「だから私はあの子が在籍している間、中学と高校には徒競走を止めさせた。あの子が私に泣いて頼むんだよ。胸が揺れる徒競走には出たくないとね」
「……」
権力者は学校行事にも口を挟む。
「胸が大きいのは女の武器だと思っていたが、そうでない場合もあるんだな」
そう言った後、遠山は私をちらりと見た。どういう顔をして遠山の話を聞けばいいのか、私は自分の顔がこわばるのがわかった。
「後にも先にも咲子が泣いたのあのときだけだな。大学に通う頃になると咲子の私を言うことなんか一つも聞かなかった。自由と言えば聞こえはいいが、やはりあの子も高彦や一子同様我儘だったんだ」
「……」
「おっと、一人だけいたな」
「はっ?」
「一人だけ君のことを大馬鹿者だと言った人間がいる」
「……」
「誰だかわかるようだな」
「……」
私はその人物を知っている。なぜなら私はその人から直接「馬鹿者」と言われたからだ。
「いいえ」
自分のことを調べられて気分を害さない人間はいない。
「君を悪く言う人間は一人もいなかった。勉強はできる。仕事は市民のためにコツコツと真面目にする」
「……」
「茶室は見たか?」
「はっ?」
「函館で私の茶室を見たかと訊いているんだ」
「申し訳ございません」
「咲子だな。あいつは昔からそうだった。するなということを私の目を盗んでする。高彦も一子も私が怖いから絶対にしない。でも咲子は違った。私に叱られて泣いてもあの子は懲りない。『ごめんなさい、もうしません』咲子から何度それを聞いたか」
「……」
何となく想像ができた。あの咲子なら見たいものは見るし、やりたいことはやる。たとえ自分の父に止められたとしても。
「高彦も一子も社長の器じゃない。高彦は学ばない。一子は勉強はできても強い意志がない。咲子は勉強も運動もできた。一番関心することは私に逆らうことを屁とも思っていないところだ。咲子の小学生時代の運動会には私はどんなに忙しくても応援に行った。ゴールに張られたテープを一番に切る咲子が誇らしかったよ。ところが中学高校はダメだったな。どうしてだかわかるか?」
「いいえ」
「ここだよ」
「……」
遠山は両手を使い、咲子の胸の膨らみを作って私に見せたのだ。咲子は胸が大きい。
「だから私はあの子が在籍している間、中学と高校には徒競走を止めさせた。あの子が私に泣いて頼むんだよ。胸が揺れる徒競走には出たくないとね」
「……」
権力者は学校行事にも口を挟む。
「胸が大きいのは女の武器だと思っていたが、そうでない場合もあるんだな」
そう言った後、遠山は私をちらりと見た。どういう顔をして遠山の話を聞けばいいのか、私は自分の顔がこわばるのがわかった。
「後にも先にも咲子が泣いたのあのときだけだな。大学に通う頃になると咲子の私を言うことなんか一つも聞かなかった。自由と言えば聞こえはいいが、やはりあの子も高彦や一子同様我儘だったんだ」
「……」
「おっと、一人だけいたな」
「はっ?」
「一人だけ君のことを大馬鹿者だと言った人間がいる」
「……」
「誰だかわかるようだな」
「……」
私はその人物を知っている。なぜなら私はその人から直接「馬鹿者」と言われたからだ。

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