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千一夜
第43章 第七夜 訪問者 ゴースト
「だらしがないわね」
職員専用の入り口で、香坂は苦い顔をして私を待っていた。
「登庁早々そう言う言い方はやめてくれ」
「遠山の奴らがさ、私たちのところにわざわざスコアカードまで持ってきたのよ。長谷川、惨敗じゃない」
「奴らは止めろよ」
「奴らで十分だと思いますが。あっ、お嬢様とのご旅行で長谷川は向こう側の人間になったのかな」
「なってないよ。そして一つだけ言い訳させてくれ」
「長谷川が言い訳って珍しいわね」
「彼女がシングルだなんて知らなかったんだ。歯が立たなかったよ」
「彼女だって、長谷川はもう立派な遠山側の人間じゃん」
「だからさ」
「統括」
誰かが私を呼んだ。声の方に目をやると、部下達がニコニコしながら私たちのところにやってきた。やってきた部下は五人。私は彼らが救いの神に見えた。
「どうかしたのか?」
私はその中の一人、真下にそう訊ねた。
「みんなを代表して五人できました。統括、ごちそうさまでした」
真下だけでなく五人の部下たちは声をそろえて私にそう言った。就業開始前、自分の席を離れることができない部下もいる。
「ごちそうさまって、何が?」
「北海道のお土産です」
真下がそう言う。
「土産?」
「統括ってまじで最高です。紙袋に一杯のお土産なんて人生で初めてです」
そう言ったのは入庁三年目の菊池という女の職員だ。
「……」
ハッと気づいた。土産はすべて竹内に任せていたのだ。私は竹内が選んだ北海道の土産を知らない。おそらく土産は竹内が部下たち一人一人に届けたのだろう。
「今日は超ハッピーです」
菊池の後輩入庁二年目の女子職員山口が菊池に続いた。
「喜んでもらえたのは嬉しいが、市民の前で『まじ』だとか『超』とかは言わないように」
「了解です」
菊池と山口は敬礼してそう言った。
「あっ、統括。市長がお呼びです」
真下が私にそう言った。
「ああ、わかった」
「ありがとうございました」
五人は私に礼を言って持ち場に戻って行った。
「そう言えば私のところにも長谷川からのお土産が届いてたわ。ごちそうさまでした。今日はまじで超パッピーだわ」
香坂は菊池と山口の真似をすると、私に背を向けて歩き出した。
「どういたしまして」
「長谷川、市長を待たせると面倒なことになるわよ」
香坂は私を振り返らなかった。
「了解だ」
職員専用の入り口で、香坂は苦い顔をして私を待っていた。
「登庁早々そう言う言い方はやめてくれ」
「遠山の奴らがさ、私たちのところにわざわざスコアカードまで持ってきたのよ。長谷川、惨敗じゃない」
「奴らは止めろよ」
「奴らで十分だと思いますが。あっ、お嬢様とのご旅行で長谷川は向こう側の人間になったのかな」
「なってないよ。そして一つだけ言い訳させてくれ」
「長谷川が言い訳って珍しいわね」
「彼女がシングルだなんて知らなかったんだ。歯が立たなかったよ」
「彼女だって、長谷川はもう立派な遠山側の人間じゃん」
「だからさ」
「統括」
誰かが私を呼んだ。声の方に目をやると、部下達がニコニコしながら私たちのところにやってきた。やってきた部下は五人。私は彼らが救いの神に見えた。
「どうかしたのか?」
私はその中の一人、真下にそう訊ねた。
「みんなを代表して五人できました。統括、ごちそうさまでした」
真下だけでなく五人の部下たちは声をそろえて私にそう言った。就業開始前、自分の席を離れることができない部下もいる。
「ごちそうさまって、何が?」
「北海道のお土産です」
真下がそう言う。
「土産?」
「統括ってまじで最高です。紙袋に一杯のお土産なんて人生で初めてです」
そう言ったのは入庁三年目の菊池という女の職員だ。
「……」
ハッと気づいた。土産はすべて竹内に任せていたのだ。私は竹内が選んだ北海道の土産を知らない。おそらく土産は竹内が部下たち一人一人に届けたのだろう。
「今日は超ハッピーです」
菊池の後輩入庁二年目の女子職員山口が菊池に続いた。
「喜んでもらえたのは嬉しいが、市民の前で『まじ』だとか『超』とかは言わないように」
「了解です」
菊池と山口は敬礼してそう言った。
「あっ、統括。市長がお呼びです」
真下が私にそう言った。
「ああ、わかった」
「ありがとうございました」
五人は私に礼を言って持ち場に戻って行った。
「そう言えば私のところにも長谷川からのお土産が届いてたわ。ごちそうさまでした。今日はまじで超パッピーだわ」
香坂は菊池と山口の真似をすると、私に背を向けて歩き出した。
「どういたしまして」
「長谷川、市長を待たせると面倒なことになるわよ」
香坂は私を振り返らなかった。
「了解だ」

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