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千一夜
第42章 第七夜 訪問者 雨
 ロールケーキを食べ終わると、咲子はペーパーナプキンで口元を拭いた。
 その様子を見ていて私は思わず吹き出しそうになった。そして咲子は不思議そうな目で吹き出しそうになっている私を見た。もう我慢が出来なかった。私は「ははは」と大笑いをした。咲子も笑って小さな声で「バカ」と言い返した。
 咲子は私の前では遠慮しない。というか、立場的に咲子が私に前で遠慮する必要などない。遠慮すべきは私の方だ。
 ゴルフでは一切手加減することなく私を負かした。食べたいものがあれば、たとえそれが私のものでも遠慮はしない。自由な女だと思った。我儘に育ったのは決して咲子のせいではない。それは遠山家に生まれた咲子の運命だ。
 私と咲子の間にあった高い壁はもうないのかもしれない。そうであってもどこかに私と先を分ける線は存在しているのだろう。
 鉛色の空と海。水平線がその二つを隔てている。だが空と海は永遠に離れることはない。空があって海がある。海があって空がある。恐らく空は咲子だ。咲子は高いところからずっと海を眺めている。私は海になることができるのだろうか。
「こうしてぼんやり海を見ているのも悪くないな」
 私はカップに残っているコーヒーを飲み干してそう言った。
「感傷的ね」
 そう言った咲子の目は私ではなく、海の方を見ていた。
「海で遊んだのは、小学生の頃両親に連れられて行った海水浴が最後だ」
「勉強ばかりしてたから?」
「嫌味に聞こえたら許してほしい。咲子さんの言う通りだよ。海なんかより勉強の方が大事だった」
「今は?」
「もうがむしゃらに勉強なんてしなくていい。まぁ、仕事のことは気になるだろうけど」
「長谷川さんは仕事人間なのね」
「仕事人間てつまらない男の代名詞?」
「違うわ。仕事をしない人間がつまらないのよ。そして仕事ができない人間は男でも女でも最低」
「なるほど」
「長谷川さん、一つ訊ねていい?」
 咲子は私を窺っている、
「どうぞ」
「この旅行楽しかった?」
「もちろん。すべてが新鮮でそのすべてに満足できた。幸いなことに熊に出会うこともなかったし、ただ……」
「ただ、何?」
「クッシーに会えなかったのは残念だ」
「ふふふ」
 旅はいつか終わる。そんな風に思っていると咲子が私にこう言ったのだ。
「私ちょっと変」
「変? どういうこと?」
「私……」
「……」
「私、濡れてるみたい」
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