この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
千一夜
第42章 第七夜 訪問者 雨
 数年前、世界をどん底に落とした新型の嵐は、国境を越えて日本にもやってきた。ウイルスと言いう見えない敵は、人間の健康を脅かした後観光業界を襲った。そのせいで観光業界は甚大な被害を被ることとなったのだ。
 客を呼びたくても、国は外に出るなと言う。外に出ては危ない。人と接触するのは極力を避けろ。国は国民にそう呼びかけた。そんな中わざわざ遠い温泉地に出かける人間などいない。
 湯の川温泉太宰亭。当時、創業百年を超えるこの老舗の旅館はキャンセルが相次ぎ、新たな予約も全く入らなかった。客が来なくても旅館を維持するためには人件費だけでなく多額の費用が掛かる。太宰亭はやむなく数名の従業員を自宅待機にしたが、それでも先が全く見通せない日が続いた。
「一月我慢しろ」と言われれば、時間はかかっても太宰亭は復活できる。だが、大型の台風がもたらす雨風は一向に止む気配がなかった。国からの補助金、銀行からの融資だけではもはや限界であった。
 太宰亭は遠山機械工業会長遠山高獅に連絡を取った。
 遠山機械工業の保養施設が大沼にある関係で、遠山は北海道に来るといつも太宰亭に寄っていたのだ。もちろん太宰亭は遠山がプライム市場に上場してる会社の会長であることを知っている。太宰亭にとって遠山はただの客ではなかった。
「助けてくれ」
 それはたった一言だけの懇願であった。
 遠山は遠山家の資産管理会社を通して太宰亭の全株式を取得した。条件はただ一つ、全従業員の雇用の保証だった。
 遠山は太宰亭の申し入れを受け入れた。現在の太宰亭のオーナーは遠山高獅。太宰亭の貴賓室は遠山高獅だけが使える部屋となった。
 残念ながら部屋から海を窺うことはできないが、貴賓室の十五畳の和室と書斎からだけでなく、部屋についている露天風呂からも貴賓室の庭が見えた。遠山高獅は部屋や風呂から見える春夏秋冬の庭を遠山は独り占めにしたのだ。長男の高彦にも長女の一子にも使わせない。もちろん咲子にも。
 だがこの旅で、咲子は父遠山高獅に甘えた。
「使てもいいわよね、お願い」
 咲子は自分の父にそう頼んだ。
 しばらく咲子と遠山の会話は続いた。そして……。
「ありがとうお父さん」
 咲子はそう言って電話を切った。
 竹内の運転する車は、今日宿泊する予定だったホテルではなく、湯の川温泉太宰手亭に向かうことになった。
 
/533ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ