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千一夜
第42章 第七夜 訪問者 雨
至福の時は永遠に続かない。早川にもっと握って欲しいと思っても、私のお腹はそろそろ限界を迎えようとしていた。ただ、一つ心残りがある。だがそれを竹内に頼むことはできない。なぜならここは寿司屋なのだ。
竹内が卵焼きの準備をしている。もちろん卵も道内産。
「美味しかったわわ」
「ありがとうございます」
早川はそう言って咲子に頭を下げた。
「お恥ずかしいのですが、こんなに旨い寿司は初めてです。全部美味しかった」
私が行くことのできる寿司屋にはカウンターがない。もちろん回転寿司も決して不味いわけではない。が、やはり早川の握った寿司とは一味も二味も違う。食通でない私でもそれくらいはわかる。
「長谷川さん、最後に何か握りましょうか?」
「……」
早川のその問いかけに私は一瞬戸惑った。早川はそれを見逃さなかった。
「長谷川さん、どうぞ遠慮なさらずに何でも言ってください」
「そうよ、遠慮なんかしないで。しばらくここの寿司は食べられなくなるのよ」
咲子は私の様子を窺いながらそう言った。
「あの、こういうところは初めてなもので、これを言っていいのかわかりませんが……」
「……」
「……」
早川も咲子も私の次の言葉を待った。
「これ頂きたいんです」
そう言って、私はケースの中のネタを指さした。
「烏賊……ですか?」
「はい。ただ……」
「ただ……?」
「刺身で食べたいんです」
「つまり烏賊刺し……ということでしょうか?」
「はい」
返事はしたが、私は早川の目を見ることが出来なかった。
「ははは」
「ふふふ」
私は早川と咲子の二人から笑われた。
「……」
やはり言うべきではなかった。寿司屋で刺身を頼むなんて……。
「烏賊刺しですね」
「いいんですか?」
恐る恐る私は早川にそう言った。
「だったら私にもお願い」
「承知しました」
早川は私の無理な注文を快く引き受けてくれた。
寿司屋で刺身なんてご法度だと思っていたが、早川によると私のような客もいるのだそうだ。ここは函館。函館の烏賊を私はそのまま食べてみたかった。
店を出ると竹内が運転する車が待っていた。咲子のために竹内がドアを開ける。咲子が車に乗り込んで、それから私は咲子に続いた。
竹内が卵焼きの準備をしている。もちろん卵も道内産。
「美味しかったわわ」
「ありがとうございます」
早川はそう言って咲子に頭を下げた。
「お恥ずかしいのですが、こんなに旨い寿司は初めてです。全部美味しかった」
私が行くことのできる寿司屋にはカウンターがない。もちろん回転寿司も決して不味いわけではない。が、やはり早川の握った寿司とは一味も二味も違う。食通でない私でもそれくらいはわかる。
「長谷川さん、最後に何か握りましょうか?」
「……」
早川のその問いかけに私は一瞬戸惑った。早川はそれを見逃さなかった。
「長谷川さん、どうぞ遠慮なさらずに何でも言ってください」
「そうよ、遠慮なんかしないで。しばらくここの寿司は食べられなくなるのよ」
咲子は私の様子を窺いながらそう言った。
「あの、こういうところは初めてなもので、これを言っていいのかわかりませんが……」
「……」
「……」
早川も咲子も私の次の言葉を待った。
「これ頂きたいんです」
そう言って、私はケースの中のネタを指さした。
「烏賊……ですか?」
「はい。ただ……」
「ただ……?」
「刺身で食べたいんです」
「つまり烏賊刺し……ということでしょうか?」
「はい」
返事はしたが、私は早川の目を見ることが出来なかった。
「ははは」
「ふふふ」
私は早川と咲子の二人から笑われた。
「……」
やはり言うべきではなかった。寿司屋で刺身を頼むなんて……。
「烏賊刺しですね」
「いいんですか?」
恐る恐る私は早川にそう言った。
「だったら私にもお願い」
「承知しました」
早川は私の無理な注文を快く引き受けてくれた。
寿司屋で刺身なんてご法度だと思っていたが、早川によると私のような客もいるのだそうだ。ここは函館。函館の烏賊を私はそのまま食べてみたかった。
店を出ると竹内が運転する車が待っていた。咲子のために竹内がドアを開ける。咲子が車に乗り込んで、それから私は咲子に続いた。

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