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千一夜
第42章 第七夜 訪問者 雨
「それからこれは会長がお二人にと松前で競り落としたマグロです。三日前、松前に水揚げされました」
 早川はネタケースの中のマグロを指してそう言った。
「松前? 大間ではなくて?」
「長谷川さん、函館の人間は、いや北海道の人間は松前のマグロこそが日本一だと思っています」
「すみません」
「ははは、いいんですよ。却って大間大間と騒いでくれた方がありがたいです。騒げば騒ぐほど松前のマグロは隠される。そうなれば適正な価格で北海道の人たちに味わっていただける」
「なるほど」
「もう我慢できないわ。それを握って」
「承知しました」
 寿司にも食べる順番はあるはずだ。咲子は淡白な魚からではなく、いきなりネタの横綱を指さした。遠山家の寿司屋だ。ルールは遠山家の人間が決める。
「おい、遅いぞ」
 早川は奥にいる自分の妻にそう声をかけた。
「申し訳ございません」
 早川の妻は徳利二本を盆にのせて奥から出てきた。お猪口を咲子と私の前に置く。
「函館の地酒五稜でございます」
 早川の妻は咲子と私に酒を注ぐとまた奥に下がって行った。乾杯、お猪口を合わせてから私と咲子は五稜を飲んだ。
「どうぞ長谷川さんもお好きなものを言ってください」
「ありがとうございます」
 私はネタケースの中を見回した。
「大きいサンマだな」
 思わず出てしまった私の独り言。早川は私の独り言をすかさず拾ってこう言った。
「今年のサンマは太いですよ」
 咲子の目も一瞬サンマに向かった。
 私は可笑しくなって噴き出しそうになった。ネタケースの中の魚を見ているだけで楽しくなる。これじゃあ、子供と同じじゃないか。高級寿司店は大人を子供にしてしまうのかもしれない。
 あれ? これは一体何だろう?
「それはホッケです」
 早川は寿司を握りなが、、私の目の先にある魚を見ていた。
「ホッケ? ホッケってあのホッケですよね」
「ははは。長谷川さん、あのホッケです」
「ホッケって寿司ネタになるんですか?」
「なりますよ。ただ道外ではあまり見かけませんね」
「それじゃあ。ホッケをお願いします」
「承知しました」
 早川はそれに続けて「お待ち同様でした」と言って、大トロを咲子の前に置いた。
「いただきます」
 そう言って咲子は両手を合わせる。咲子が大トロに手を伸ばした。大トロが咲子の口に中に運ばれる。
 私は寿司を食べる咲子をずっと見ていた。
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