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千一夜
第42章 第七夜 訪問者 雨
 遠山家だけのためにある寿司屋。お品書きの木札もなければ時間を知らせてくれる時計もない。この空間には私と咲子、そして寿司職人の早川だけだ。
 もし木製のネタケースがなかったら、ここが何の店なのかわからないかもしれない(こう思うのは私がこういう店に入ったことがないからだ)。
「どうぞお掛けになってください」
 私と咲子は並んで早川の前に座った。言うまでもないが、店の奥の方に座ったのが咲子で、店の入り口側の方に座ったのが私だ。暖簾は店の中に仕舞われたまま。聞けばこの暖簾が外に出されたことは一度もないとのことだった。
「おい」
 早川が店の奥にそう声をかけた。
「はい」
 という女性の声がした。
 和服を着た女がお茶を持って私たちのところにきた。
「いらっしゃいませ」
 女は咲子の前にお茶を置いて挨拶をした。咲子は女に会釈した。
「いらっしゃいませ」
 女は私にもそう挨拶をした。
「今日はお世話になります」
 私は女にそう言った。
「私の家内です」
 早川が和服を着た女を自分の妻だと紹介した。
「早川の家内でございます」
 女が改めて私に挨拶をしたので私は席を立った。
「長谷川と申します」
 私はそう言って女に頭を下げた。
「長谷川さんは市の統括課長をされている優秀な方だ」
 早川がそう言った。
「優秀ではありませんから」
 もう驚かない。遠山家の関係者はみな私のことを知っている。
「こんなにお若いのに課長さんなんですね。今日はどうぞよろしくお願いします」
 早川の妻はそう言って奥に下がっていった。
 若いと言われたが、早川も早川の妻も私と同世代のように感じた。後で早川に歳を訊ねたら、案の定早川は五十で早川の妻は早川より一つ下の四十九ということだった。
 奥に下がって行った早川の妻が紙袋を二つ提げてまた私たちのことろにやってきた。
「こちらは高彦様から、そしてこちらは一子様からです」
 早川の妻はそう言って二つの紙袋を咲子に渡した。咲子は二つの紙袋の中を覗くと紙袋を床に置いた。
「何?」
 私は咲子にそう訊ねた。
「ワインみたい」
「ワイン?」
「……」
 咲子の表情が曇るのがわかった。兄と姉からワインのプレゼントを貰っても大して嬉しくないのだろう。
 後で知ったのだが、贈られたワインは二本ともロマネ・コンティで、二本の合計金額は私が乗っている車より高い。
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